16日目(森のダンジョン②)

暗い階段を向けた先で一行を夕暮れが迎える。


彼らが下りてきた大樹以外に背の高いものはない。代わりにこの辺が森であったことを知らせるように、周囲には倒木と雑におられた切り株が散らばる。


そんな円形に作られた空間に、たたずむ影が一つ。夕日をバックに佇むそれは、いうまでもなくこの空間の主である。


「GAAAaa!」


鋭い爪を振り回し、一行を威嚇する。このダンジョンを破壊し、支配するその存在の名は


----------------------------------------------------

クリムゾンベア Lv8

----------------------------------------------------


鮮血と夕日に染まった真っ赤が、その巨体からは想像もできない速度で加速する。対するはいつもは後方に構える大人三名。同時にレベルが高い上位3名でもある。


「では。護様行くわよ!」


「OK遊撃は任せろ。フィリア支援任せた。」


「行きます『権現・青衣』からの、魔法陣解放!魔術拡大!」


フィリアが準備していた魔法陣が展開され、生み出された水が増幅される。まさに量の暴力は、周囲の倒木を巻き込みながらクリムゾンベアへと迫るそれは、クリムゾンベアすっらも飲み込む。


「GA!」


しかし、そうはならない。その手についた大きな爪を振るった瞬間、夕日を受けて赤く染まったその波は、自身の王の命令に従うように割れる。


「神獣武装:クロム!」


「クルル」


しかし、そのワンアクションの隙をついて懐に入った護。その手の中で銃へと姿を変えたクロムのトリガーを引く。魔力のMPを消費して放たれたそれは、物体を持たないエネルギー。しかし、その形状は間違いなく護が腐らせていた【銃術】の対象である。


放たれた弾丸が、クリムゾンベアを捕える。しかし、クリムゾンベアにとってはその威力は豆鉄砲に等しい。むしろ遠距離武器を持って近接戦をしてきた愚か者に制裁をくださんとその爪を振った。


しかし、勘違いしてはいけない。現在の護はロベルトが増えたことでレベルが上がっている。そこで銃術のレベルを5にしたことで習得した新規習得スキル【ガンカタ】。その効果は近接戦に銃を利用した戦闘の許可である。


明後日の方に銃口を向けてトリガーを引く。銃口から手持ち花火のようにあふれるエネルギーは慣性によって護を反対側に吹き飛ばす。その勢いで攻撃の進路から離れた護は、肘によるカウンターを放つ。


「ついでだ受け取れ【浸透撃】」


インパクトの瞬間、錬金術で魔術操作を鍛えたことで習得したアビリティを発動。その効果は魔力による物理的威力の指向性の決定。要は防御無視である。


「GAAAaaa!!」


これまで味わったことのない、内臓を直接殴られたような一撃に悲鳴を上げるクリムゾンベア。この瞬間クリムゾンベアは護を、縄張りに迷い込んだ弱者ではなく、敵と認識した。始まる2人の攻防。それはロベルトが合流まで続く。


「GAaaa!!」


突然、クリムゾンベアが咆哮を上げる。


その目に残っていた生物的な理性は消え去え、代わりにその肉体が隆起する。深紅の肉体はより黒に近づき、全身に走った鮮やかな赤の線が胎動する。最後にその背中と肘からどす黒く鋭い突起が突き出し、ぼたぼたと自身の血をあふれさせる。


「よし、第二ラウンド開始だ。ロベルト!ネオン!交代!!」


そういって離脱を試みた護に暴れるようにその爪を振るう。ただ、今までと違うのはその爪に自身の血液を纏わせ、攻撃範囲を拡大させていることである


「ガウ」


「任せなさい!」


大盾を構えたロベルトがその一撃を受け止める。そのインパクトで纏っていた血液が周囲に散らばり、小さな弾丸となって周囲に散らばり受け止めた対象へと迫る。が、今回の盾役は2人。光の壁にという第二の盾がそれを受ける。


----------------------------------------------------

クリムゾンベア Lv8(鮮血モード)

----------------------------------------------------


いわゆる暴走状態へ移行したクリムゾンベアは、攻撃は最大の防御だと全身を凶器へと変える。この状態に移行したクリムゾンベアはすべての攻撃に全身の血液による拡大と、追撃を付与するため回避は不可能。しかも一人で受けようとすると結局追撃を回避できないのでこうやって二人で対応するしかないのだ。


ただし、この状態かなり防御が薄くなるほか、全身に現れた突起は武器と同時に弱点でもあるそうだ。なお、情報提供元はロベルトである。さすがレベル20の風格である。


赤と光が彩る戦場で、巨漢のはげロベルト赤い嵐クリムゾンベアが質量に任せたダイナミックな戦闘が続いている。


「あらあら、この1本はいただくわね。」


盾を器用に扱って、攻撃を受けながら背中に生えたその角をへし折る。同時に、そこで堰き止めていた鮮血があふれ、クリムゾンベアに大きなダメージを与える。代わりに自身にまとう鮮血が増えたことで、よりその一撃は拡張されていく。


「ん…ソル合わせて」


「任せて!」


戦闘開始時から大回りして背後へと迫っていた兄妹が、ルナが先導する形でクリムゾンベアにばれないように背後へと回る。その手にはアイルから預かってきた泥でできた武器。それをロベルトによって折られて、いまだ流血を続ける背中に向けて突き刺した。


「GAAAaaa!!」


本日二度目の雄たけび。まあ大小合計4本の刃物が知己刺されば仕方ないだろう。しかし、この兄妹。ノルマ達成だけで満足するほど優等生ではない。いや、むしろノルマ以上をするのだから優等生なのか?


「ついでだよ!」


「ん…!!」


と、とにかくついでとばかりに自身の武器を取り出してそれぞれの魔法を纏った一撃を放ちそのまま離脱する。なお、この時ソルの火をルナの風魔法が強化して、想定以上の火柱になって周囲を驚かせることになった。


「そろそろかな?」


「アイル~動けなくなってしまって~ごめんなさい~」


「いや、僕が無理を言ったからだし無理はしないで。」


こちらソルたちに武器を渡したアイルチーム。


「あ、そろそろ効いてくるかな?」


「あ、動きが悪くなりましたね~。」


「よかった。鑑定ではちゃんと麻痺毒(弱)と弱体毒(弱)になってたけど、聞くかは心配だったんだよね。」


なお、作成に使用したのは先ほど倒したキノコモドキの素材。それを急いでポーションにしたわけだが、どういうわけかポーションより成功率が高かった。(なんで?)


そして、それをロアの協力の元泥に混ぜ込んで武器の形にしたのが今刺された武器である。なお、純粋な泥でなくなったことで普段以上に魔力は消費は激しくて動けなくなったし、強度の問題で普通状況では刺されない決定的な問題があるが、今の状態なら問題なし。


そうして苦しみだしたクリムゾンベアの残っていた角が砕け、一気に血液が溢れ出す。


「GAAAaaa!!」


自身の終わりが近づいて、クリムゾンベアが残ったすべてをくべる。周囲にあふれた血液はその右手に向かって集まり始める。


「させません。【式神術】行きます!」


その手にあるのは今フィリアができる最大の魔術式。その展開時にHPを流し込み、生み出された偽りの命が設定された魔法を繰り返す。そうして生み出され続ける水球は集まり始めた血液を薄め、その流れを邪魔をする。


そして【式神術】の強みは、一つの魔法を完全に切り離して運用できること。つまりは…


「追撃です!その血液の流れ止めてあげます!【アイスランス】」


取り出した魔法陣に魔力を流し、設定していたワードを叫ぶ。同時にフィリアの周りに生み出される氷の柱。それをクリムゾンベアの背中目掛けて放つ。


「止めよ!【グラビティインパクト】」


「焼き切るよ!【スラッシュ】」


「ん…暴走してるから使い放題…【アサシネイト】」


「【浸透撃】応用!名付けて【浸透銃撃】!これで終われ!」


合わせて放たれる4つのスキルを前に、クリムゾンベアの最後のあがきは不発に終わるのだった。


おめでとう。ダンジョン攻略完了だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 月曜日 18:00 予定は変更される可能性があります

転生神様のシュンパテイア ~天地開闢から始める世界創造物語~ クスノス @Rubidus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ