第5怪・最終怪「真名-まな-」

それを聴いたるなは、頭に血を上らせた。

「何で、何で、そんなことをする必要があるのよ!?あんたのせいで、私達は、不幸になった! 私の家族を返せえ―――!!!」

『げはは!そんなもの、快楽を得るために決まってるだろ。今すぐ、オマエも喰ってやらあ~!!!』

ものもけが、でかい口を開けてるなを喰おうとした、刹那。


ものもけの腹が突如、光り始めた。

『ギャッ!腹が、腹が熱い!』

腹を押さえて、苦しみもがくものもけ。

るなが驚愕して、ものもけを見る。


ものもけの足や周りには、この怪異に殺され、喰われてきた人達が無数に群がり、ものもけを押さえつけていた。

その様子は、恨みを晴らそうとするようにも、るなを救おうとするようにも見える。


もう少し、力が加われば、ものもけを滅せるかもしれない。

るなは、ツルートで見た。ものもけさんの生前の名を叫んだ。


「〇〇〇〇!!!」


本名を暴かれた、ものもけは、それが決定打になり、弱体化して30代位の男性の霊に変わった。

憤怒ふんぬの表情を浮かべながら、叫ぶものもけだった者。


『チクショウ!なぜ、俺の名を知ってるんだ!お前なんか。早く、喰っちまえば良かった。こんちくしょうーーーー!!!』


ものもけは、苦しみながら。弾け飛び、消滅した。

るなの母、兄、姉や被害に遭った人達が、力を振り絞ってくれたのだった。


「やった……!助かった」


母が、るなにものもけの素性を語りだす。

ものもけは、自分を死刑にした世を恨んで、死んだ。

殺人者の魂が、死者の魂を取り込み、怪異化したものだった。


死後も、成仏出来ず地縛霊になり怨霊化した。

しかも、生前の殺人への強い執着と快感が忘れられず、気に入った人間に取り憑き、殺めて腹に蓄えていた、が。

ものもけ自身が消滅したため、家族達も皆も成仏出来ると母は、語った。


他の人達が光りながら、天へ成仏して行く。

母や兄、姉達も青白く身体が光り始めた。

その時、るなはとっさに母を呼び止めた。


「待って!逝かないで!寂しいの。私は、誰にも愛されていない。必要とされていない!私も、お母さん達と逝きたいの」

「お願い。連れて行って……」


るなは、涙を流してうったえた。

しきりに懇願するるなに母は、こう言った。


『るなはまだ、生きている。ここから、いくらでもやり直せる。辛い時は、いつでも、呼びかけて。お母さんはいつも、あなたの側にいるわ』

「お母さん……!」


母は、兄や姉達と光りながら、空へと昇って逝った。

るなは母達を見送りながら、誓った。

母や兄姉の分までこれからも、生きてゆく。そして、もう二度と、あんな怪異に頼ったりしないと。




るなは、その後、徐々に病が良くなっていった。

あの時の猫は、“ちょこ”と名づけ。るなと暮らしている。



◇ ◆ ◇


数か月が経ち、ある日、音信不通になっていた。父から、スマホに連絡があった。

父は、誠心誠意。娘に謝り、彼女は、それを許して一緒に住むことにした。

父は、人柄が丸くなっており、るなに温かく接してくれるようになった。


その後、SNSではものもけさんの噂は、途絶えたかにみえた。


――しかし。

―――ねえ?ものもけさんの都市伝説知ってる?―――

「ものもけさん、ものもけさん。いらっしゃいましたら……。」


―――俺を呼び出したのは……。オマエか!!!―――


人の悪意と恨みの数だけ、その怪異が生まれるとしたら……。

今日もどこかで、別のものもけさんが、誰かに呼び出されているのかもしれない。



-了-


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ものもけさん」完結しました。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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ものもけさん 夢月みつき @ca8000k

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