第24話
学校内での人助けは今まで何度もしてきている。
暗黒ギフトが届くようになる前から、困っている生徒には手を貸すようにしてきた。
きっとその中に梓もいたのだろう。
そう思うと、手助けをしてきてよかったと心から思えた。
「深谷くんならきっと助けてくれると思ったの。だけど、巻き込んじゃったよね。本当にごめんなさい」
梓はベッドに座ったままで深く頭を下げた。
「別に謝らなくても良いよ」
事情がわかればすべて納得できることだった。
今まではわけもわからず走ってきたけれど、これからは梓の気持ち、自分の気持をしっかりと理解した上で行動することができる。
「でも、ここに来たってことは私になにか言いたかったんでしょう?」
そう言われて海斗と健は目を見交わせた。
今回の事故を防ぐことに関してはさすがに物申したいと考えていたところだった。
でも、目の前にいる梓を見るとそんな気持ちもしぼんでいってしまう。
どんなことでも叶えてあげたいと思ってしまう。
「例えばあの黒スーツの人」
海斗はドアの前で待機している男を見て言った。
「今回みたいに大人の手が必要なときに、あの人に相談するとかアリ?」
そう質問すると梓は驚いたように目を見開いた後、笑顔で頷いた。
「もちろん。うちの執事は優秀だから、いくらでも使ってやって」
梓に言われて男は少しだけ身じろぎをした。
大人も友人も海斗たちの言葉を信じてくれなかった。
誰も耳をかしてくれなかった。
けれど、梓の執事ならすべての事情を知っている。
説明だってする必要なく信じてくれるのは大きな存在になるだろう。
それから海斗と健は梓に向き直った。
「事情はすべてわかったよ。これからも今まで通り、予言の手紙を送ってくれる?」
海斗の言葉に梓は一瞬絶句してしまった。
まさかあのとんでもないギフトを継続してほしいと言われるなんて、想像もしていなかった。
海斗がこの家を突き止めて訪れることも、予想していたことだった。
そしてそのときはきっと、もう二度とこんなことをするなと責められるのだと覚悟をしていた。
それなのに、目の前の2人は今笑顔で、ギフトを続けてくれと頼んでくる。
そんな展開想像もしていなくて、不意に笑顔がこぼれた。
「ふふっ」
と笑い、同時に涙が頬を伝う。
「え、ちょっと、大丈夫?」
海斗と健が焦ってハンカチを手渡してくる。
海斗のズボンのポケットに入っていたそれはくしゃくしゃに丸まっていて、また笑ってしまった。
声を上げて笑う。
こんなの久しぶりだった。
誰かを傷つて笑うんじゃない。
ただただ楽しくて、3人でいられることが嬉しくて笑顔が止まらない。
やがて梓の笑い声につられるようにして2人も笑い始めた。
3人分の笑い声はいつまでも屋敷内に響いていたのだった。
梓と出会って数日後、また海斗の元にギフトが届いていた。
玄関先でそれを拾い、学校へとかける。
今日はどんな内容の手紙が入っているだろうか。
心はウキウキしていて自然と早足になっていく。
とんでもない内容の手紙が入っていたらどうしよう?
不安はあるものの、今はもう健と2人きりじゃない。
大人の仲間ができたのだ。
海斗は梓の執事である男の連絡先を聞いていた。
なにかあれば連絡するように言われている。
「健!」
グラウンドでサッカーをしている健を見つけて右手を上げる。
健は仲間になにか伝えてからこちらへ駆け寄ってきた。
「今日も来たのか?」
「あぁ、来た」
2人で校舎裏へ周り、海斗はランドセルを下ろした。
そして小さな黒い箱を取り出す。
「よし、開けるぞ……!」
海斗は目を輝かせて、箱の蓋を開けた……。
☆☆☆
その頃、秋吉家には1人の少女が訪問していた。
少女は豪邸を前にして萎縮していたが、チャイムを鳴らすより先に中から黒スーツの男が出てきて硬直した。
「いらっしゃいませ」
男に言われて少女はぎこちなく頭を下げる。
「お嬢様がお待ちですよ」
「はい」
少女は執事について屋敷の中へと姿を消したのだった……。
END
暗黒ギフト1 西羽咲 花月 @katsuki03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます