第23話
☆☆☆
梓が学校を早退しても、しばらく休むことになっても誰もお見舞いには来てくれなかった。
それ所か連絡もひとつもなかった。
梓はベッドに横たわって長い1日をジッとして過ごす。
ランドセルの中には教科書やノートが入りっぱなしで、それを確認する元気もなかった。
目を閉じれば転校生をイジメていたときのことばかりが思い出される。
みんなと一緒に汚い言葉をはいた。
みんなと一緒に転校生の持ち物を壊した。
みんなと一緒に転校生を笑い者にした。
それが仲間だと思っていた。
友達だと思っていた。
だけど誰も今の梓を心配していない。
学校に来なくなった梓のことなんて、みんなどうせもいいのだ。
あんなに笑いあったのに。
あんなに結託したのに、意味のないものだったのだと、梓はようやく理解した。
誰かの悪口を言う人は、自分の悪口だって言っているに決まっているのだ。
そこに友人関係なんて存在しない。
どうしてそんな簡単なことに気がつくことができなかったんだろう。
情けなくて笑みが漏れた。
きっと今頃みんな梓の悪口を言っていることだろう。
その場にいない人間のことを悪く言うのは、梓もよくしていたからわかる。
悪い想像をかき消すためにキツク目を閉じてみる。
だけど浮かんでくるのはやっぱり嫌な思い出ばかりだ。
やがて梓は現実から逃げるように眠るようになった。
夢の中にいれば悪いことを考えなくてすむ。
友達がこないことを悲しむ時間だってなくなる。
そうして眠りの中に逃げ込むようになってからだった、梓が妙な夢を見るようになったのだは。
いや、本当はもっと別のキッカケがあったのかもしれない。
けれど梓に思い当たるところはなかった。
夢の舞台が学校であるとき、必ずといっていいほど悪いことが起こった。
誰かが階段から落ちたり、喧嘩をしてケガをしたり。
最初の頃は学校にあまりいい思い出がないからそんな夢を見るのだと考えていた。
学校の夢を見る度に鮮明になっていき、やがて夢の中に出てくる人間の学年がわかるようになってきた。
そして何時にどこで、その人物がどうなるのかも。
ここまでくるとさすがに怖くなってきて、梓は学校の夢を見るとメモを取るようになった。
この夢はなにか重要なことを知らせているのかもしれないと思ったからだ。
ただ、どれだけ沢山の夢を見ても相手の顔まで見ることはできなかった。
何度も夢の中で相手の顔を確認しようとしたのだけれど、うまくいかない。
なにが悪いのか、梓にもわからなかった。
そしてまた久しぶりに学校へ行った時、梓は夢の内容をクラスメートに伝えた。
イジメ仲間だった1人はそれをちゃんと聞いてくれたが、同時に信じてはくれなかった。
「なに言ってんの梓?」
そう言って大声で笑われてしまったのだ。
梓は信じてもらなかったことにショックを受けたが、それ以上に好奇な視線がこちらへ向けられることになったことがショックだった。
転校生がこのクラスにやってきたときと同じ視線を向けられて、言葉がでなくなった。
次のターゲットが自分になるのではないかと不安にもなった。
それが災いしたのだろうか。
梓はそれからすぐにまた体調を崩してしまって、学校に行くことができなくなったのだ。
幸か不幸はか、梓はそのままイジメの対象にはされていない。
その代わり、友人も1人もいないままだった。
梓の過去を聞いて海斗と健は深刻な表情を浮かべていた。
梓の言っていることをすべて信じたいと言う気持ち。
しかし、信じきれずにいる自分がもどかしかった。
とにかく目の前にいる梓は未来人ではないということはわかった。
自分たちが誘拐されたり、殺されたりする心配はなくなったわけだ。
それだけでも大きな成果だった。
「それでもやっぱり誰かに伝えて止めてほしくて、こんな回りくどいことをしていたの。ごめんね?」
手を合わせて謝られると弱かった。
特に梓みたいな美少女が小首をかしげてくるのだから「いいよ」と言うしかなかった。
だけど気になることはまだある。
どうして海斗が選ばれたのかだ。
「どうして、俺だったの?」
学校に来られていない梓のことだから、家が近いからとかそういう理由だろうと思っていた。
けれど次に聞いた話しは以外なものだった。
梓はまるでいたずらっ子みたいな表情を海斗へ向ける。
「深谷くんは1度私を助けてくれたの。覚えてない?」
「え?」
海斗はとまどって瞬きをする。
梓とは今日始めて会ったと思っていた。
でも学校が同じだから学校内で何度か会っていても不思議ではない。
海斗は懸命に記憶を手繰り寄せてみるけれど、その中に梓の姿はなかった。
「ごめん、覚えてなくて……」
申し訳なく感じて頭をかく。
「やっぱり覚えてないよね。うん、当たり前だから大丈夫」
梓は自分を納得させるように言って何度も頷いた。
「私、予知夢を見るようになってから1度だけ学校へ行ったの。その時にも体調が輪うくなったんだけど、その時助けてくれたのが深谷くんだった。ネームを見て名前を覚えていたの」
「そ、そうなんだ?」
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