第7話 10月17日 7本目
いつも、仕事終わりには、スーパーに寄って食材を買い、重たい荷物を両手に持って帰り道を歩いていました。
この時期には、20時を過ぎると季節的なものもあって、辺りは真っ暗になり肌寒さを感じていましたが、道にそって街頭が立っているため、帰り道を怖いと思った事はありませんでした。
ですが、あの日に私が体験した事は、それまで平気だった帰り道を畏怖するようなものでした。
これは、そんな私が体験した話です。
その日もいつものように、仕事からの帰り道でスーパーにより、自宅へと続く道を歩いていました。
私の家は、川を渡った先にあり、川にかかる橋を約5分ほど歩く必要がありました。
普段であれば家に帰ってからの事や、次の日の事を考えているので、橋を歩く時間は気になるものではありません。
ですが、その日に限っては何故かとても長く感じ、歩いても歩いても橋を渡りきれる気がしませんでした。
それと言うのも、橋に足を踏み入れてから妙な気配を感じ、どこからか視線を向けられている気がしてならなかったのです。
ですが、辺りを見回しても人影はなく、ただ不気味な感覚だけが、私を取り巻いていました。
それは橋を3分の1ほど歩いた時でした。
何かが水に飛び込むような、大きなな音が聞こえたのです。
突然の事に驚いた私は、身をすくめじっと音の出どころを探りました。
ですが、どんなに待っても再び音がする気配はなく、恐る恐る橋から顔だけを出して、川を覗き込んでみました。
すると、すでに小さくなっていたのですが、川の表面には波紋ができていました。私は、先程の音は魚でも跳ねたのだろうと、気を取り直して歩き出しました。
ですが、感じていた視線は変わらずおり、居心地の悪さから歩く速さをあげて橋を渡ろうとしました。
およそ半分程橋を渡った時でした。再び、何かが水に飛び込むような音がなり、私は驚きつつもすぐに水面を見ました。
すると、先程よりは大きくはっきりとした波紋が広がっていました。ですが、やはり音の正体はわからず、より不気味さをましていました。
いよいよ持って落ち着かなかった私は、重たい荷物を持っていましたが、ほとんど走っているような形で橋を渡りました。
あと少しで橋を渡り終える、その時でした。
頭上から何かが落ちてくるのを、視界の端でみてとることができました。
思わず悲鳴をあげ、それを避けようとしたその時、私はずっと張り付いて離れなかった視線の主が、私の頭上ーー正確には街灯の電線ーーにいると直感的に思ったのです。
あと2歩3歩で橋を渡りきれるといった状況で、私は足がすくみ動けなくなりました。
どれくらい、その場で立っていたのかはわかりません。
ですが、限界を迎えた私は、ゆっくりと頭を上げみました。
すると、そこには異様な姿をした何かがいたのです。
それは、一見すると人間の子供のようにも思えました。ですが、手足は異様に細長く、人で言えば顔に当たる場所には虚ろような穴があるだけでした。
私はその穴に吸い寄せられるかのように、視線を動かせず、その場で固まっていました。また、本能的な危険を感じ、体中に嫌な汗が流れていました。
どれくらいの間、それを見ていたのでしょうか。
ふいに、それがゆっくりと体を動かし始めたのです。
直感的に、それが私に襲い掛かる姿勢だとわかりました。
そのため、心のなかで自分の体が動くよう、必死に叫び声をあげ、それが飛びかかってきたのと同じタイミングで、私は家へと走りその場から逃げ出しました。
家の中に入ると先程の事が信じられず、荒くなった呼吸を整えるのに時間がかかりました。
落ち着きを取り戻すと、両手に持っていた荷物を落としていたのに気が付きましたが、とても取りに戻る事はできませんでした。
そのまま、眠ることもできず朝を迎え、人通りがあるのを確認してから、落とした荷物を拾いに橋へと向かいました。
そこには、まるで獣に食い散らかされたような跡だけが残っていました。
あれはいったいなんだったのでしょうか。
帰り道 遊bot @asobot
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます