第6話 10月16日 6本目
「帰り道」って聞くと、だいたいの人は夕方や夜の道を想像するんじゃないですか?
でも私は違うんですよね。
なんせ夜の仕事をしているんで、夜に出勤して朝に帰るのが普通なんですよ。
なんで、出勤のときは夜の人がまだ多い時間帯だし、帰り道は朝の人が多い時間帯になるんですよ。
なんで、一般の人がする"帰り道に警戒する"っていうのは基本的にないんですよ。
ただ、その当時は厄介な客につきまとわれててさ、いわゆるストーカーってやつ?夜だろうが昼間ろうが、常に周りを気にしながら歩いてたんだよね。
もちろん、私がでてるお店も対策してくれてさ、家の近くまで送迎したり、厄介な客の情報集めて警察に通報してくれたり、まぁ考えられることはやってくれたんですよ。
それなのに、アイツはどうやってか私の行く先々に姿を見せてさ、本当に怖かった、てかキモかったんだよね。
これは、そんな最中に1人で帰らないといけない時に体験した話なんだけどさーー。
その日は、太客相手に昼近くまで接待した帰り道だったんだよ。あ、太客ってのはこっち世界の用語で、お金を沢山使ってくれるお客、つまりはお得意様みたいなもんね。
で、いつもより遅い帰りだったもんだから、お店の送迎もなくてさ、お昼だからアイツも変なことはしてこないだろうと思って、のんびりと帰ってたのよ。
お腹も空いたし何か買って帰ろうかと思って、途中で見つけたコンビニ立ち寄ったのよ。
ついでにトイレにも行ってさ、コンビニのトイレって女子トイレには手洗い場がついていることもあるんだけど、そこのトイレは男女共有の私がなくてさ、別に何も考えずに手を洗ってたのよ。
そしたら、急に背中が寒くなるような視線を感じてさ、鏡越しに背後を見ると例の厄介客がこっちを見てたんだよね。
しかも、商品棚に半分体を隠して、こっちを覗くような形でさ。
ヤツの姿を見ただけで気分悪くなったんだけど、時間帯は昼間だし、気が付かなかったふりして食べ物とジュース買ってコンビニを出たんだよね。
その間もアイツの視線を感じていたけど、不思議と姿を見ることはなかったんだよね。
それなのにさ、コンビニを出てからもずっと私の後をついて来ている気がしてさ、振り返っても人混みに紛れてるのか見つけられなくてさ。それなのに、お店のドアとかガラスとかを横目で見ると、反射で姿が映ってて、確かに後をつけられてたんだよね。
で、その日はなんだかいつもと違って、ヤバさを感じたもんだから、すぐにお店と連絡して、マネージャーの家に向かったんだよ。
もちろん、その間もずっと後をつけられててさ、それを確認できるのが、通りかかった車とか、カーブミラーとかに映る姿なんだよね。
それだけで不気味なんだけどさ、なんかいつもと違って表情が硬いっていうか、服装とかの格好はおかしくないのに、なんだか生気を感じなかったんだよね。
でも、ちゃんと見たわけでもないし、そもそもそんなこと考えている暇もないしで、とにかく歩いてマネージャーの家についたんだ。
マネージャーの家はオートロック式のマンションでさ、念のために周りを確認して、アイツの姿が見えないことを確認してさ、部屋番号を押してロックを解除してもらったんだよね。
飛び込むように開けてもらったドアに入って、エレベーターに乗った時に、やっとホッとしてさ、なんだかいっきに疲れが出てきて、眠気まであってボーとしてたんだよね。
特にすることもないから、エレベーターの階層表示を見てては、あと少しで目的の階に着くって時だったんだよね。
後に『ヤツがいる』って思ったのは。
そう思ったら背中から汗が出てきてさ、だってマンションに入る時にはヤツの姿は見てなくて、エレベーター中にいるはずなんてないんだもん。
それなのに、確かに背中からヤツの視線を感じてさ、体が震えるぐらち怖くなってきたんだよね。
それでも、どうしても気になって、恐る恐る後ろを振り返ってみたの。そしたら、そこには鏡があったんだけどさ、その中にやつが居てじっとこっちを見てたんだよね。土気色の顔をしてさ。
もう、私は怖さが限界を超えててさ、声もあげられず固まってしまってさ。それを見ていたヤツは、ニヤリと不気味な笑顔をして、ゆっくりとこっちに近づいて来たんだよね。
まるで、鏡から抜け出すようにさ。
私は、エレベーターの扉に張り付くようにして、それから逃れようとしてさ、あとちょっとでヤツがでて来るって時に、エレベーターが目的の階にとまったんだ。
私は、背中から倒れるように外に出たんだけど、そのままマネージャーの部屋に走ってさ、驚いていたマネージャーに支離滅裂に話しをして、信じてはくれなかったけどとりあえず警察を呼んでもらったのよ。
だけど、警察やマネージャーに確認してもらってらさ、エレベーターに設置されていたカメラに映っていたんだって。
私が、ヤツに迫れて逃げ出す瞬間が……。でさ、その映像には続きがあって、私が逃げ出した後に、ヤツはカメラの方を向いてゆっくりと近づいてさ、ドアップになった瞬間消えてしまったんだって。
え、私はその映像を見なかったのかって?
嫌に決まってるでしょ、そんな不気味なの物を見るの、それに今でも鏡とかガラスの反射は見ないようにしているしね。
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