第5話 10月15日  5本目

歩きなれた道でも時間帯が変わればまったく違って見えることありませんか?


例えば、朝は人でごった返し賑わっている道でも、夜になると人っ子一人おらず、寂れた道のように見えません?


これは、俺が通い慣れたいつもの帰り道で体験した話です。


俺は会社への通勤のため、商店街を抜けて駅へと向かっていました。

その商店街は、小規模ではありましたが、昔ながらの店が立ち並び、朝は通勤のために商店街を通り抜ける人の姿が多くありました。

ただ、夜になるとシャッターを降ろしたお店がほとんどで、商店街を通り抜ける人はまばらになるのです。


そんな様子に寂しさを感じていたある日でした。


その日は、友人と遊びにでかけた帰りで、疲れが溜まり、いつも歩いているはずの道も遠く感じていました。

そのためか、うつむき気味に歩いてしまい、周りが見えていませんでした。


ふと気がつくと、人気の無いはずの商店街に、人影を感じたのです。

ですが、私は視線を上げることができず、ひたすらにうつむいた状態でしか歩けなかったのです。


突然の事に驚いた私は、なんとか体をおこそうとしました。

ですが、全身が脱力したかのように力が入らず、しばらくの間はそのまま歩くしかなかったのです。


そのかたわらで、私はわかる範囲で周囲をうかがうと、私と人影はみな同じ方向へと歩いているのに気が付きました。

また、私を取り囲むように、人影は少しずつ増えており、いまでは商店街の道を埋め尽くす程になっていました。


そして、人影に流されるように、大きくないはずの商店街を延々と歩き続けていました。


すでに足は張り始め、もともと疲れていた事もあり、歩くのが辛く思い始めた頃でした。

いまだ、うつむいた状態ではありましたが、先方の方から人影がきえて行くような気配がしたのです。


「これで助かる」と始めは思いました。ですが、すぐに人影が消えて行く理由がわからず、このまま進めば自分がどうなるのかと、怖さが込み上げてきました。


それでも、人影に押されるように、私の足は自分の意思に反して歩みを止めません。


少しずつ、少しずつ、見えないはずの視界の端で、終わりが近づいてくるのがわかりました。

なんとか立ち止まろうと、足に力を入れようとしましたが、まるで自分のものではないかのように、思うようにはいきません。


そうこうしている間に、商店外の『終わり』が目前となりました。

私は流されるままに、『終わり』に足を運んでしまいました。


すると、それまで入らなかった力が体にはいり、身を起こすことができたのです。

慌てて周囲を見回すと、そこは商店街の外れにあった古い神社でした。


とは言っても、本殿が別にある分社なのですが、安全祈願で有名な場所でもありました。


私は、狐につままれた心地のまま、念のためにお参りを済ませ、家路へと向かいました。


神社を出る時は、また同じコトになるではと、畏怖しましたが、そんなことはなく無事に帰り着く事ができました。


あれはいったいなんだったのでしょうか。

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