エピローグ
【ストーン星人父娘の会話を、地球の日本語に意訳して】
「お父さん、お父さん」
「ん? ストミ、なんだい?」
「お父さんは偉い学者さんなんだよね?」
「偉いかどうかは分からないけれど、学者だよ。どうしたの?」
「あのね。テレビで言ってたけど、遠い遠いところに
「あぁ、本当だよ」
「やっぱり本当なんだ! へぇ~! ・・・でも、どうして遠い地球ってところに人がいるってわかったの?」
「うん。それはね、お父さんたちがウンラミティーン(訳語なし)を帰っている時、地球人の造った乗り物を見付けたんだ、偶然に」
「へぇ~!」
「その乗り物にお手紙が入っていたんだよ」
「お手紙?」
「そう、お手紙。そのお手紙はね、お父さんやストミの身体みたいな硬い石で出来ていたんだ」
「石で?」
「石で。だから初めお父さんたちは地球人は怖い人たちだと思ったんだ。ストーン星人の身体を叩いたり削ったりしているって」
「・・・うん」
「でもね、それは地球では普通で、誰かを怖がらせたり脅すためにしたことじゃないのかも?って、お父さんたちは想像した」
「想像はすごく大切っていつも言ってるもんね」
「そうだね」
「それで、お手紙には何が書かれてたの?」
「地球のことがたくさん書かれていた。地球という星のこと、地球人の生活や文化のこと、地球人以外の生き物のこと、地球のいろんなことが分かりやすく、たくさんたくさん書かれていたんだ」
「地球の人ってどんな人なのかな? テレビで見た絵だとストミたちにすごくそっくりだったけど」
「うん、そうだね、そっくりなんだよ」
「ビックリだった!」
「ビックリだね。お父さんたちもビックリしたよ。きっとこの姿カタチが生き物として一番便利なんだろうね」
「便利!」
「それにお手紙には、地球人は水から生まれたって書かれていたよ」
「ストーン星人は石から生まれたって学校で教えてもらった!」
「そうだね。だから地球人たちはどうやらストーン星人よりもうんと命が短いみたいだね」
「どのくらい?」
「う~ん・・・たぶん、1億分の1とか10億分の1ぐらいじゃないかな?」
「1億分の1? それってうんと短いの?」
「物凄く短いね」
「かわいそう・・・」
「うん。でもねストミ。それをかわいそうって考えてはいけないんだ」
「どうして?」
「それはね、それぞれに決められたことなんだから。決まりごとは受け入れて生きていかなくちゃいけない。ストミの言うようにかわいそうなのかも知れない。けれど、それぞれに与えられた定めなんだ。だから、かわいそうじゃなくて、もっと大きな目で見なくてはいけないんだ。・・・それに長生きというのは決して幸せなことだけじゃないんだよ」
「・・・難しいわ」
「そう。難しいんだ」
「でも、ストミたちは長生きだから、きっと地球の人とお話しできるんだよね?」
「そうだね。地球には41億の人がいて、少なくとも63種類の言葉があるみたいだね。特にジアパニズゥ語(日本語)というのがストトン語に似ているようなんだ」
「似ているの?」
「うん。文章の組み立て方や単語がね。例えば、ストミは人と会ったら何て挨拶するかな?」
「コンニーチァ!」
「ジアパニズゥ語では“コンニチワ”って言うんだよ」
「コンニチワ! すごく似てる!」
「似てるね。だからすぐにお話しできるかもね」
「すごいね!」
「うん、すごいよ。お父さんたちもぜひ地球人たちに会いたいと思ってる」
「ストミも会いたい!」
「会いたいね。だから地球の人たちが怖がらないように、地球の乗り物にお父さんたちはお手紙のお返事を持って行ってもらうことにしたんだ」
「どんなお返事を書いたの?」
「地球人ともっと話したい。できれば会いたいって書いたんだ。だって宇宙にはストーン星にしか生き物がいないと思ってたからね」
「宇宙にお友達がいたのね」
「お友達か・・・。うん。もしかすると兄弟姉妹かもね」
「ストミのお姉ちゃん?」
「ストミの方が先に生まれていたとしたら、地球人は妹かな?」
「妹かぁ~」
「妹だね、きっと。・・・でもね、困ったことがひとつあったんだ」
「困ったこと?」
「ストミには難しいけれど、生き物には感情ってものがあるんだ。でも地球人には・・・。お父さんやお母さんやストミ、ストミの友達のストナーレちゃんやストーリャちゃんたち、ストーン星の人みんなにはあるけれど、地球の人にはまだ無い感情があるって分かったんだ、お手紙を読んでいるとね」
「カンジョウ?」
「ストミも、笑ったり、怒ったり、泣いたり、いろんな気持ちになるだろう? 地球人はストーン星人と比べると、ひとつ、大きな感情が足りないんだ」
「感情がひとつないの? 不思議!」
「不思議だね。でもそれが生き物の進化ってことなんだ」
「シンカって?」
「う~ん・・・進化っていうのは・・・そうだな・・・生き物が大人になって老いていくって言えばいいかな・・・?」
「地球の人はストミと同じ子供なの?」
「う~ん・・・そう言えるかもね。まだまだたくさんの経験が必要なんだよ」
「経験かぁ~」
「経験だね。だからお返事には経験になるためのヒントを書いたんだ」
「ヒント?」
「そう。ちょっと考えると答が解かるようにね」
「難しい?」
「もしかすると難しいかも。だけど友達とは差がない、同じ気持ちでいたいだろう? 感情も、立場も、考え方も」
「うん」
「それで、お返事も石じゃなくて、地球人に少しでも近付けるように、“皮”に書いたんだ」
「カワ・・・?」
「うん。地球の乗り物にほんのちょっとだけくっ着いていた地球人の一部分をお手本にして、お父さんの友達たちが“皮”っていうものを造ってくれた」
「地球の人のカケラからできたお手紙ね」
「うん、そう。そうなんだ。地球人の欠片だね」
「それで、お返事はいつ地球の人に届くの?」
「誰も人が乗っていないからね。チンカミティーン(訳語なし)を使えたのでもう届いているはずだよ」
「それじゃあ、お返事のお返事ももらえるかしら?」
「もちろん! お父さんたちはきっとお返事を頂けると信じているよ。だって、同じ宇宙に生きている家族なんだからね」
「お父さん、ストミいつか地球の人に会いに行く!」
「あぁ、きっと会いに行ける日が来るよ。きっとね」
「ストミ、楽しみ!」
ゆらめく 道路の石畳
10年前 僕たちは
同じ場景を見ていた
論理回路
サスライノ
サテライト
サスライノ
サテライト
見送る
Piovoynyar
雲の隙間 光を残し
Piovoynyar
待ちながら 歩き続け
せめて 10年後の君は
思い出してほしい
眩しさに奪われた声
この真新しい記憶
ロンリー帰ろう
サスライノ
サテライト
サスライノ
サテライト
手をふる
サスライノ
サテライト
手をふる
やがて、66億年の時が流れる。
ストーン星人ストミ博士は仲間と共に、科学指南のために遠い遠い地球を訪れる。
だが、そこで彼女たちが見たものは、巨大な赤色巨星となった太陽が、太陽系の星々をすべて飲み込んでしまったあとの光景であった。
真っ赤な陽光に照らされたストミたちは悲しみに泣き崩れ、かつて地球と呼ばれた星があったこの宇宙空間に、鎮魂を兼ねて科学指南書と石の花束と追慕の
「今はもういない、ずっと前、ここで生きていた君へ・・・」
天地に炎
人に知能
我が目に魂
世は寂しい
堪え難い孤独感。
ストミは仲間と共に地球人と地球の冥福を祈る。
長い時間、祈る。
長い長い時間、祈り続ける。
もう少し経てば、
ストーン星人はまた、ひとりぼっちになってしまった。
『地球人の欠片』 おわり
地球人の欠片 東雲未だき @shinonomemadaki
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