曰く、勇者御一行は本当は魔王を倒していない
「何言ってんだソイツ」
「ですよねー」
確かに、魔王をその手で直接倒した勇者様方からしたら、そんな反応になるでしょう。
「ですけど、意外とこの噂は本当なのでは?みたいな声が上がるのも事実です」
魔王は倒され、世界はゆっくりと平和になった。だがしかし、魔王を倒されたあとでも、魔物は平然と人を襲いますし、生き残りの魔族が国を襲った、なんて話も聞きます。
なんなら、旧魔王四天王が国を作っちゃってたりもしてますよね。あの方自体、戦争には非協力的で、戦いには参加してなかったから、現在は信用も信頼もされてます。
ですから、もしかしてと考える人もいるのです。『勇者様方は優しいから、もしかしたら魔王を見逃している』と。
私はそんなこと微塵も思ってませんが。
「殺したよ。しっかりと、こいつでアイツの胸を突き刺した」
「その後、私が大量の魔法で押し潰して」
「その後、俺の大楯でぶん殴って」
「最後に、私渾身の聖女ブローで顔面を殴りました」
「なんという脳筋」
だからあんなとんでもない噂が生まれるんです。あながち間違ってないのでは?王女は訝しんだ。
「大丈夫。世界はちゃんと平和さ。ま、なんかあいつ死に際に言ってたけど」
「この俺が死のうとも、第二第三の魔王がいずれお前たちを滅ぼすー的なこと言ってましたよ。煩かったので殴って黙らせましたけど」
「……………」
もう聖女様が魔王なんじゃないですか?時々バーサーカー過ぎません?
「これで噂の照明は出来ましたね。ありがとうございました」
話を聞き終わり、メモをとっていたノートをパタンと閉じる。
「王女ちゃんさ、それを俺らに聞いてどうしたいの?」
「実は、ちゃんとした勇者様叙事詩を作りたいと思ってまして」
私の夢、それはまるで御伽噺のような勇者様達の旅の記録を、後世────それこそ、あるか分からない勇者様達の寿命が尽きるまで残すこと。
私が、初めて勇者様達の活躍を知り、胸を踊らせたあのワクワクを、もっと色んな人に知って欲しい。
「なので、いつか勇者様達の旅について行かせてください」
「お、いいなそれ」
「四人での旅も楽しいけど、偶にはいいかもしれないわね」
「そうだな。きっと、新たな発見の喜びも、人一倍増えるだろ」
「王女ちゃん」
「はい」
聖女様が、私の手を優しく両手で握りこむ。
「実りのある────それこそ、旅が終わったあとでも、自然と思い出して、楽しかったと思えるような、そんな旅をしましょう」
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