第12話 錬金術師、魔道具で無双する
「すまんな。キミの自信作、陽の目を浴びることはなかったようだ」
俺は彼女が“武器”だと主張する男の髪を掴み、手提げ袋のようにぶらりとその首を持っていた。
ちなみに切断の瞬間、触れたところから雷系の魔法を割と強めに流し込んでいたので、体内に張り巡らされていたであろう回路的な線もほぼ焼き切ったはず。
さっきその首に向かって話しかけて反応がなかったのと、胴体も首が切り離されてから前に倒れこんでいたので、おそらく機能は停止させたと思う。
「……」
無言のルナ。胴体から解き放たれた“武器”の首をただ呆然と眺めているように見える。よほどショックだったのだろう。
「ホントに機械人形なんだな。血とかまったく出ないし」
人に近い構造で作っていると推察していたので、血液に似たオイルみたいな液体が散らかるかと思ったが、そうはならなかった。中身は普通に機械っぽい。
「あまり楽しめなかったが、勝負はこれで終わ……!!」
「……うふふふふ」
「……なにを、笑っている?」
「その子は髪の毛も通電する仕様だから気を付けてね」
「!!」
いってぇぇぇぇ!!
掴んでいた“武器”の髪の毛から大量の電流が流れ込んでくる!さっき俺が流し込んだ雷と同等の威力だ!そのまま返されてるのか!
しかも、髪の毛が手に吸い付いて首をリリースできない!
「バイバイ、おじさん」
「!!!」
ヤバい!この音……爆発する!!
どぉぉぉぉぉぉん!!!
激しい閃光とけたたましい破裂音。急激な圧力変化で大量のエネルギーが発生した地点の中心にいた俺は、当然無傷ではいられなかった。
「……マジ死ぬかと思った」
軽装だった俺の服が一部焼け、露出した肩や肘などに焼跡が残る。
爆発から逃げられないと思った俺は思考を切り替え、逆にさらに強い圧力を持った魔法を外側からかけることで、威力を相殺し、ダメージを最小限に抑え込もうとした。
それは思いのほかうまくいったようで、身体の至る所に熱傷や裂傷を負ったが致命傷には至らなかった。
「へぇ、やるじゃん。おじさん」
感嘆するルナだったが、特に大きな失望はないようだ。まだまだ仕込みは潤沢なのだろう。
「さすがあの最凶魔王デ・ブルを倒した元勇者。その伝説は伊達ではありませんな」
「……」
いつの間にか起き上がっていた機械人形が、頭がないのに胴体だけで知った口を聞いている。いったいどこから声出してんだ。
っていうかなんで倒れたんだよ。小芝居?
「おいおい。あれだけのエネルギー量を放出したってのに、フィールドにひび一つ入ってないぜ」
「
「どうやったらあんな芸術的な爆発が起こせるんだ。一度ご指導願いたいものだな」
観客席のざわめきは、ルナへの称賛の声であふれている。
ねぇ、俺その爆発、結構うまいこと抑え込んだと思ってるんだけど。その辺だれか褒めてくれる人とかいないワケ?観客席から聞こえてくる声は、ルナの技術力スゲーの声ばかりで萎える。
「さすがは幻の錬金術師ルナ・ルゥタ!運営側の負担についても考えてくれているようですね!」
「なんでも彼女、最近あまり商品が売れてなくて資金繰りが厳しいらしいですよ」
「会場の修繕費負担もバカになりませんからね!ゼタと違ってしっかりしてます!」
すいませんね。無計画で。
俺のことはさておき、ルナ・ルゥタ。やはり一筋縄ではいかない相手のようだ。あの機械人形を倒せば楽勝かと思ったが、それすらできなかった。先手を取ったのに。
伊達にこの3回戦まで勝ち上がってきたワケではないということだな。
「それじゃあおじさん、前座はこれくらいにしておいて。そろそろ本番と行きましょうか!」
ルナが、仕掛けてくる!どうする!?
「AP009、魔道具コード004から010まで順次解放。目標ゼタ・アライアント。敵を駆逐し、呪印を押印せよ」
「
難しい単語を並べ、俺に対して“武器”に攻撃の指示を出すルナ。首のない屈強な身体だけのその戦士は右手を前にかざし
「コード004ロケットパンチ、発射」
そのまま胴体から分離した右腕が、ジェット噴射しながら一直線で俺に向かって飛んで来る!ただ、ごぉぉという音だけはすごいが、速度はそれほどでもない。
これなら回避も防御も容易だ。だがなにを仕込んでいるかわからないので、不用意に叩き落すのは無策。ここは一旦避けて……
「閃光魔法弾、解放」
その考えすら悠長だった!どこから発せられているかわからない“武器”の音声が一瞬耳に入ったかと思うと、放たれた右腕は突然輝きだし、光の奔流が俺の視界を奪う!
「なっ!目が……」
見た目に完全に騙された!まさか閃光弾だったとは!
くそっ!ただ目が使えなくても感知魔法がある!感度の出力を最大にして対応するしかない!集中しろ、俺!
「続いてコード005誘導弾、発射」
今度は左手を分離した?誘導弾ってこれまた厄介な……いや、言葉に騙されるな。それにまず受けの思考を止めなければいけない。このまま連続で押し込まれるとジリ貧だ。いずれやられる。
攻めるしかない!ただいくら速くても直線的な動きはだめだ。読まれている可能性が高いし、その辺りの対策は万全とみておいた方がいい。ここは……あれでいくか。
「おおっと!ゼタ、なんだその動きは!!」
俺は集中力を研ぎ澄まし、この連続して襲い掛かる戦闘兵器への対応策として、だれも想像だにしないような、特殊な動きを取り始めるのであった。
魔王を倒して20年。転生した異世界で辺境貴族になった元勇者のおっさんだけど、強制参加のデスマッチでツンデレ聖女に無双ざまぁしたら、悪役貴族がバズって優勝です 十森メメ @takechiyo7777
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