3回戦 VS 幻の錬金術師 ルナ・ルゥタ

第11話 錬金術師、機械人形を連れてくる

 いや、ちょっと。そんなのアリなんですかね?


「規約違反じゃないですって!これは、れっきとした“武器”なんですっ!」


 ルナが自信満々に武器アピールしてくるそれは、誰がどう見たって人間だと思う。


「事前審査でちゃんと“武器”と認定されてるぞ!ゼタ・アライアント!」


「いやぁ最近の技術はすごいですね!魔道具もここまで進化しましたか!」


「それはいわゆる“機械人形”というやつだ!安心して戦ってくれ、ゼタ!」


 先の対戦で王都の本闘技場はバトルフィールドがボロボロになったため、3回戦は臨時特設闘技場で執り行われることになったが、実況と解説は相変わらずこの二人だ。


 また、今回は大型ビジョンの設置が間に合わなかったのか、二人は闘技場の最上段に設けられた簡素な実況席らしきスペースで音声だけを垂れ流している。


 なに?ボジョレーヌとヤスはそんなに俺の戦いが見たいの?ファンなの?


 あと、昨日リシェルに大会ルールについてみっちりレクチャーを受け、剣や杖、斧や槍以外の特殊な武器の持ち込みは、大会実行委員会の事前審査で許可をもらえばオーケーということは理解していた。ルークが使っていた魔道具も、その審査を受けた上で参戦していたらしい。


 ただ……


 武器の認定基準、緩すぎやしませんかね?


「人としてご認識いただけるのは非常に光栄なのですが、あくまで私はルナ様の“武器”です。ご理解下さい」


 武器は自分を武器とは名乗りません。ていうか、普通にしゃべるんだ、キミ。


 もうなんというか。話し方は丁寧だが、見た目は明らかに屈強な体躯をした理想的な戦士だ。戦闘に特化しているのは一目瞭然。男仕様だと思うが、ロボットというなら性別は正直わからない。


「へぇ……あれが幻の錬金術師、ルナ・ルゥタか。意外に子供なんだな。しかも女だし」


「見た目に惑わされちゃあいけねぇ。ありゃ自身も魔改造してるって噂だぜ」


「ついに人間みたいなモンまで作っちまうたぁ、流石と言わざるを得んな」


 臨時特設闘技場の観客席は狭い。収容人数の限界は2,000人と言ったところ。


 結界も張ってないらしく、見る方はかなり危険が伴う今回の対戦カード。


 さすがに観戦者もそんなにいないだろうと思っていたが……そんなことなかった。


 どうやらその界隈の人間らしき強面のオジサンたちが興味津々にこの戦いを楽しもうとしている様子が伺える。


「2回戦まではこの子がいなくてもなんとかなったんだけど……。おじさん、凄く強いらしいから連れてきちゃいました!」


「ま、まぁ、ルールに則ってるなら別にいいか……」


 ルナの見た目は明らかに少女だ。二つ編みに結った赤毛に大きな紫の瞳。鼻の上付近に薄くそばかすらしき跡が見え、それがより子供っぽさを感じさせた。身長も低く、俺の半分くらいしかない。


「(いくら凄い魔道具を作る錬金術師とはいえ、あんな子供とフツーに戦ったらまたいじめだなんだって世間から叩かれそうだな)」


 むしろ機械人形だと主張するアイツの方が戦いやすい。アレなら仮にぶっ壊したとしてもそれほど大きな非難は受けないだろう。


 ……我ながら浅ましいと思っているが、やっぱり人気とかなんだかんだ言って少しは気にしてる。ちょっとでも上がるほうが実は嬉しかったりする。はい。


「本日は臨時会場のため大型ビジョンの設置がございませんので、対戦オッズのほうは各自スマホなりでご確認ください!」


「どうやら今回の対戦はゼタのほうがオッズ、低いみたいですよ」


「なんせあの破壊の聖女と現役勇者を退けましたからね!正しい評価と言えるのではないでしょうか!」


 結構適当にやってたんだけどな。実力のほうはかなり認められてきているようだ。


「わたしの作った地縛装置とニセ呪印。なかなかおもしろかったでしょ?」


 前戦でルークが使用していた魔道具のことを言っているのか。ルナがしたり顔で話しかけてくる。


「ああ。とても“おもちゃ”とは思えない性能だったと思うよ」


「安心してね。わたしはルークみたいな、あんな汚い使い方しないから」


 あまり子供らしくない笑顔で、軽くルークをディスりながらそう言い放つルナ。


 まぁアレはアレでルール内での仕込みだったらしいから、問題ないとは思うんだけど印象はやっぱよくないよね。


 ちなみにそのルークと彼に負けたもう一人の男には、荒れ放題になっている屋敷の畑を復活させる任務を与えてきた。リシェルには引き続き家事全般を依頼。


 配信は好きにすればいいが、ぼけっと家に居られてもコストがかかるだけなので、仕事はしっかりしてもらおうと思っている。


「仕込みは結構大事だと思うよ、お嬢ちゃん。実力差がある場合は特にね」


「ええ。だからいっぱいこの子に仕込んできたの。なかなかいい仕上がり具合になってるから、ゆっくり楽しんでいってね」


 隣に立つ“武器”の背中をポンッと軽くたたきながら、大人な表情を見せるルナ。


 ……案外、余裕があるじゃないか。なんか子供っぽくないよな、この子。


 見た目だけで実はまぁまぁ年齢いってるんじゃないのか?ホントは。


 ――今朝も「車」で迎えに来てくれたフラムが教えてくれたルナの事前情報をなんとなく思い出す。


「界隈では神と崇められている錬金術師。表に出てこないから幻と言われています。戦闘能力は不明。年齢も不詳。噂では2代目じゃないか、とか魔改造してるんじゃないか、とか色々噂されています。現存するかなり多くの魔道具制作に関わっていて、彼女が扱う技術体系は一線級の錬金術師でも全く理解できていないそうです」


 要するに、天才ってことらしい。俺も魔道具のことはよくわからない。


「さぁ、お三方!そろそろ準備はよろしいかな?」


 機械人形を1人カウントするのは止めてくれ。頭がこんがらがる。


「……とっとと始めてくれ」


「ええ。問題ないわ」


「ともに頑張りましょう!ルナ様!」


 やっぱ人間じゃないの、アイツ!


「それでは始めようか!レディィ……」


 ……いや、機械人形だ。そう言い聞かせよう。そして人間じゃないと言うなら、それなりの戦い方がある!


「ファイ!!」


 少しフライング気味だったかもしれないが、俺はボジョレーヌが開始を告げるか告げないか微妙なタイミングで、機械人形に先制攻撃を仕掛けた!


 先の戦いから、俺は少しずつ実践感覚を取り戻しつつある。敵が人間じゃないというなら、容赦の必要もないだろう。


 先手必勝は勝負のセオリーだ。


「ああっと!これは一体なにが起こったと言うんだぁぁぁ!!!」


 ボジョレーヌの大きな叫びが狭い特設闘技場に響き渡る。観客席も息を飲む。


 それもそうだろう。なんせ、俺は……


「……なぁ、“武器”さん。お前は首だけでも、動けるのか?」


 誰の目にも映らない速さで機械人形の間合いを侵略し、一瞬でロボットだと主張する男の首をもぎ取り、その首に向かってなにやら怪しげに語り掛けていたのだから。


 







 


 

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