最終話 初恋相手と結婚出来る確率は100%!?

 10年前の僕が見た景色に今、立っている。あの時、何度も夢に見た世界。10年経てば、、少しは大人になると思っていたけど……。


 高校生の時から身長も伸びず、スーツもあまり似合ってないように感じる。


 でも、、今日は6月5日。同窓会の日だ。明美が死ぬ時に言った言葉が鮮明に蘇る。


 


 「あとは、、手紙に書いたから。じゃあ、、今までありがとう。さよなら……」


 


 手紙……。明美が死んだ後、明美の家にも行ってみたが、手紙はどこにも見つからなかった。


 手紙がある場所といえば……。夏休みにタイムカプセルを作るために、10年後の自分に手紙を書いた。


 あの手紙かもしれない。クラスLINEでタイムカプセルを開けることが告知されていた。


 10年前の僕は、、どんな事を書いたんだろう。明美は、何を書いていたのだろうか。


 尾道国際ホテルに向かう途中、

 

「おお、久しぶりだな!!」

 

 後ろから低い男の声が聞こえた。聞いたことのある声だ。

 

「久しぶりだね」


 後ろを振り返るとスーツ姿の拓海が立っていた。


「懐かしいな!!」

 

 金髪の拓海が背中を何度も叩いてくれた。高校の時は、真面目で勉強熱心だった拓海は、昨日のお見合いの前に金髪に染めたらしい。


「たっくん、、待ってよ!!」


 その隣には黒い服を着た水野さんも居た。


「水野さんにはいつ告白するの?」


 僕が小声で拓海に聞くと、


「う、、うん。もうすぐ告るつもり」


 水野さんにも聞こえるくらいの大きさで、拓海が言ってしまった。


「え、、誰に告白するって言った?」


「菜奈ちゃんにいつかちゃんと告白するよ」


「べ、、別に、、あんたと付き合う気も結婚する気も無いから!!」


 相変わらずツンデレだな。


 少し歩くと、尾道国際ホテルが見えてきた。


 尾道国際ホテルの前に来て、少し深呼吸をする。そして、恐る恐る中に入る。


 中に入って、右の階段を登り、大きな部屋に案内された。そこには、スーツ姿の人が沢山集まっていた。


 入り口近くの大きな丸い机に座った。

 

「そういえば、高校3年生の夏休みにタイムカプセル埋めたよな?」

 

「うん」

 

「今回の同窓会でそのタイムカプセルを開けるらしいよ」

 

「楽しみだね……」


 タイムカプセルの中に何を入れたか何一つ覚えていない。何か、明美との思い出の物を入れたのかな。

 

「久しぶりだね、裕介」

 

 スーツ姿のたくましい周平が僕の席の隣に座った。

 

「おお、周平。久しぶりだね」


「お前は全然変わってないな」

 

「周平は筋肉付いたね」


 消防士になった周平は、毎日筋トレをしているらしい。僕なんか筋トレは当分していない。


 同窓会の開始時間が迫る中、

 

「そういえば、佐藤さんが来れば、文化祭の3班が揃いますね」

 

 扉が開いた。

 

「はあ……はあ。ごめん、遅れた」

 

 真っ白なドレス姿のプリンセスが現れた。長い髪、整った美しい顔、体型も細く、高いハイヒールを履いていた。

 

「遅いよー、早く座りな」

 

司会の女の人がそう言うと、僕の隣の席に座った。

 

「久しぶりだね。裕介くん」

 

「なんで、、白いドレスなんだよ……」


「あれ?みんな、、スーツなの!?」


 春香が周平の隣に座り、やっと3班が全員揃った。明美は居ないけど……。

 

 そして、司会の挨拶と共に同窓会が始まった。明美の姿はどこにも無かった。

 

「これから、タイムカプセルに入っていたDVDを見たいと思います」

 

 目の前に大きなモニターが現れ、タイトルが表示された。

 

『男女逆転シンデレラ』

 

 このタイトルを見た瞬間、隣の席の拓海が声を出した。

 

「これ、文化祭のやつじゃね?」

 

 その声を聞いた周りの人達が騒ぎ始めた。僕達は、文化祭で映画を作ったらしい。

 

「それじゃあカウントダウンいきます。3.2.1.0」

 

 その声と同時に映画が再生された。何度も見た記憶がある映画。その映画の中に明美の姿があった。


 最期の夢が終わらなければ、、明美と一緒に同窓会に来れたのに……。シンデレラを見ていると、何故か僕は、涙をこぼしていた。


「裕介、、なんで泣いてるの?」


「い、、や。なんでも無い」


 映画上映が終わると、


「これから、タイムカプセルの中に入っているものを1人ずつ渡していきます」

 

 司会の合図と共に、1人ずつ名前を呼ばれ始めた。


 司会の合図と共に名前が呼ばれ、名前を呼ばれて人が前に出て、タイムカプセルに入れた物を受け取りに行った。

 

「岡本君」

 

 名前が呼ばれ、前に出ると、司会の人から、青いノートと1枚の手紙を受け取った。そのノートの表紙には「日記」と書かれていた。


 これは、、何の日記だろう……。



 

6月1日

転校生に村上明美がやってきた。まさかの再会に驚きが隠せなかった。初恋相手とこんな所で再会するなんて僕達は運命の赤い糸で結ばれているのかもしれない。明美も僕の事を好きみたいだ。初恋相手と結婚できる確率は1%と聞いたことがあるが、僕達はその僅かな1%に選ばれたのかもしれない。



 

 今、改めて見ると恥ずかしい内容だなと思いながら、次のページを捲ると、次の日も似たような内容の事を書いていた。でも、日記は夏休みまで続いていた。


 そして、最後のページには、


「明美が死んでも絶対に生き続けろ!!いつか、明美が死んだとしても、、絶対に明美の分まで生きろ!!」


 太くて大きな文字で書いてあった。そうだ。明美の分まで生きないと……。明美に色んなことを教えてあげないと。


 

10年後の自分へ

 あなたは、村上明美という女性を覚えていますか?覚えてますよね。


 いや、絶対に忘れるはずが無い。きっと、10年後の世界に明美は居ないはず。


 明美はいつか死ぬと言われています。いつ死ぬか分からないけど……。


 今、あなたは幸せですか?明美が死んだ世界で生きていける自信が今の僕にはありません。でも、、明美の分まで生きないといけない。


 日記の最後のページに、10年後の自分への応援メッセージを書きました。これからも頑張ってください


10年前の自分より




 手紙を読んだ瞬間、、。10年前の記憶が鮮明に蘇ってきた。


 


 10年前の6月1日――


「私の名前は、村上明美です。よろしくお願いします」


 自己紹介と共に僕の隣の席に座った。心臓の音が聞こえないように装っていた僕に


「久しぶりだね」


 と言ってくれた。初恋の人と再会出来るなんて思ってなかった。


 文化祭で交通事故に遭う事を知った僕は、、明美を助けるために必死だった。シンデレラの撮影が終わって、みんなで食べに行った後、


「ねえ、これから私の家に来る?」


 そう言って、僕を明美の家に誘ってくれた。初めて異性の家に行った。



 文化祭当日、運命の日。僕が意識不明の中、明美は何度も声をかけてくれた。そして、夢の中で僕達は再会した。


 花火大会、体育祭、、どれも忘れることのない最高の思い出……。


 明美が意識不明で倒れた時、、僕は怖かった。何も出来ないまま終わるなんて……。


 そんな僕達に奇跡が起きた。明美の夢の中である10年後の世界で再び会うことが出来た。




 忘れかけていた明美との記憶が蘇ってきた僕に、拓海が1枚の手紙を渡してくれた。


「これ、、明美さんの手紙らしいよ」


 震える手で僕は明美の手紙を読んだ。



 ――――

 ゆうくんへ


 本当は10年後の自分に手紙を書くらしいけど、私はいつか死ぬから書いても意味ないよね。


 だから、、ゆうくんに手紙を書くよ。寿命の短い私と付き合ってくれてありがとう。


 やっぱりゆうくんの居る学校に転校して良かったよ。ゆうくんに再会できたし、色んな友達も出来たよ。本当に楽しかった。


 もっと……一緒に居たかったよ。一緒に卒業したかったよ。でも、私はいつか死ぬ。


 私、やっぱり死ぬのが怖いよ。死にたくないっていつも思ってる。もし、病気が治ったら、ゆうくんと結婚したいな。


 ねえ、ゆうくんはこの噂知ってる?初恋の相手と結婚できる確率は1%らしいね。私の初恋相手は……ゆうくんなんだけど、やっぱり結婚なんて無理なのかな。

 

 ゆうくんから婚約指輪とか貰ってみたいなあ。もし、来世があるなら、ゆうくんとずっと一緒に居たい。今までありがとう。本当に楽しかったよ。

                     明美より



 

 その手紙を読んだ僕は、、涙で前がよく見えなかった。僕も……明美とずっと一緒に居たかったよ。


 もし、、明美が今も生きていたら、僕達は結婚していたかもしれない。初恋相手と結婚できる確率は1%とみんな言うけど、、僕達は100%結婚できる気がする。


「ねえ、いつか……みんなで明美の墓参り行こうよ!!」


 僕が言うと、みんな笑顔で頷いてくれた。明美の事は絶対に忘れない。僕達はビールを沢山飲み尽くした。




 

――次の日の朝

 

「あなた、会社の時間でしょ。早く起きて」

 

 暗闇の世界に聞こえてくる女性の声。その言葉でやっと目を覚ました。目の前には、見覚えのある女の人の顔が見えた。


 同窓会で、、少し飲みすぎたかな。明美の手紙を読んだ後、みんなで墓参りに行こうとか言ってた気がするけど……。その後の記憶が1つも残っていない。

 

「早く起きて朝ごはん食べてよ」


 リビングに向かうと、静香と子供の翔太が朝ごはんを食べていた。僕も席に座り、机の上に置かれたパンを食べ始めた。

 

「早く食べてよ」

 

「分かったよ……」


 朝ごはんを猛スピードで食べ終え、スーツに着替えて、教科書をカバンの中に入れた。


「じゃあ、、行ってくるよ」


「いってらっしゃい」「パパー。頑張って!!」


 扉を開け、青空の下、自転車を漕ぎ始めた。(END)



 

 

 ――――

 今まで読んでくださって本当にありがとうございました。途中、1ヶ月も期間が空いてしまいましたが、なんとか完結させることが出来ました。今まで長編をあまり書いたことが無かった為、不安もありましたが、読者の応援もあってここまで続けることが出来ました。ただ、1人1人のキャラクターの10年後があまり書けていないので、、これからは各キャラの10年後を書いていこうと思っています。とりあえず、ストーリーとしては1つ区切りがつきました。

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再会した初恋の幼馴染と僕は両想いだったのに10年後の僕は知らない人と同棲していた 緑のキツネ @midori-myfriend

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