第十三話 旅立ちのハジマリ



 他国に雨を降らせるために、雫音は風之国を発つことになった。

 雫音の護衛として、忍び隊の長である千蔭に加えて、部下である天寧と八雲も同行することが決まった。


「まぁ……よろしくね」

「言っておくが、私は、お前のことは信用していない。くれぐれも妙な真似はするなよ」


 友好的な天寧に対して、八雲は未だに雫音を疑っているようだ。今回も雫音を監視する目的で、自ら同行を申し出たらしい。

 その態度は対照的ではあるが、腕の立つ二人の同行が心強いことには、変わりない。


「まぁ、与人様からも言われちゃったしね。アンタのことは俺たちが守るから、安心しなよ」

「……はい。皆さん、よろしくお願いします」


 千蔭と、天寧と、八雲。


 これから共に旅をすることになる、優秀な忍び三人に向かって、雫音は深々と頭を下げた。



 ***


 雫音は、ひと月前までは、生きることに意味などないと、そう思っていた。


 自分が居ても居なくても、誰も困らない。悲しんでくれる人は、もういない。


 自分には何の価値もないのだと、むしろ疎まれる存在なのだと全てを諦めて、だったらいっそ、消えてなくなってしまいたいと――そう考えていた。


 けれど今は、少し違う。


 この力を、誰かのために、使うことができる。こんな自分にも、まだ出来ることがある。


 生きることに、ほんの微かな存在意義を見出していた。



 ――五日後に、雫音はこの地を発つ。


 始めに向かう先は、風之国の隣に位置する、雨の降らない国。自然と調和した暮らしを大切にしているという、深緑の美しい土地。緑之国だ。



 慈雨を降らせるための長い旅が、今、始まろうとしていた。


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霖雨蒼生の姫君にはなれない。 小花衣いろは @irohao87

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