拉麺鐵道柒壱壱
そうざ
Nudle Train 711
ついさっきまで梅雨明け宣言がどうのこうのと話題にしていたのに、
葬列のような人影が闇の向こうへと続く。街が大混乱を来たし、線路沿いをとぼとぼと歩いて還るしかなくなったのだ。
その道中、馬鹿げた都市伝説を耳にした。
硝子の破片に似た無数の雪片が止め処なく肌に突き立つ。
汽笛というものを生で聴いた記憶がない自分にも、
塊は眩い光源をその額に掲げ、汽笛の
轟音が咆哮となり、大地を揺るがす。
余震のような衝撃に五感が奪われる。
――どれだけ経過したのか、途方もないようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。
奪われた五感が
眼前に停まっていたのは、黒光りする無骨な汽罐車だった。
牽引しているのは客車ではない。屋台の連なりだ。それぞれに意匠を凝らした暖簾から、薄明りと湯気と香ばしい匂いとが止め処なく溢れ出ている。
全てが拉麺の屋台だった。
選り取り見取りの名物拉麺が競うように軒を並べているのだ。この国は北から南、東から西まで実に様々なご当地拉麺が存在する。その壮観な眺めと圧巻の事実とに思わず胸が踊った。
汽罐車は云う――停車時間は
これは忙しい事になった。たった七分ぽっちでどれだけの拉麺を
考えている暇はない。それは誰にとっても同じで、人の波が我先にと思い思いの屋台へ散らばって行く。
どの拉麺にも価格がなかった。待ち時間すらなかった。暖簾を潜るや否や立ち所にお目見えした熱々の丼の中に、渾然一体とした宇宙が広がっていた。
一心に息を吹き掛け、嬉々として麺を啜り、咀嚼するが早いかスープを口にし、具材の吟味も怠らない。
誰の面差しも一途な多幸感に充ち充ちている。そこにあるのは、単純明快な食の快楽だった。
――汽笛が轟く。
再び息衝いた汽罐車は、満悦の人々に温もりを残し、
たった七分ばかりの至福。体感はそれ以上、心も体も芯から寒さを忘れている。
都市伝説は
雪が降り積む。
本当に雪だろうか。
瓦解した全てが銀世界に変わろうとしている。
拉麺鐵道柒壱壱 そうざ @so-za
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