第24話 ミッション5:学年一位ノ美少女ヘノ告白ヲ阻止せよ 《達成度30%》

 二限終わりの休み時間。奇跡的に湊は他のクラスメイトと談笑しており、鳥羽さんもトイレに行ったようなので、僕は思いきって天束さんの黒歴史を聞いてみた。


 天束さんは最初こそ躊躇していたものの、誰にも口外しないと約束したらすっと口を開いてくれた。この間お互いの黒歴史を暴露したから、黒歴史に対する敷居が下がったのかもしれない。


「昔ね、なんかいつものように断れなくて、一週間くらいある先輩と付き合ったことがあったの」


 そんないつものノリで、みたいな口ぶりで始める話じゃないような……


「そ、そうなんだ」


「その時あたしは絶賛多重交際中で、先輩もそのひとりだった。しかもあたしと違って友達多いし、ルックス、運動神経、成績、何をとっても学年トップ。それに学校終わると速攻帰宅するから、どこかの芸能事務所に所属してる俳優なんじゃないかって噂が立つことももあったっけ。とにかく学内でもめっぽう人気のある先輩だった」


 定説ならスペック高いヤツほど裏がヤバい。物語的にはお決まりの展開だ、物語的には。


「それじゃあ最初は警戒したでしょ」


「あたしも裏表は気にしたんだけどね、先輩は違ったの。休みの日は自分の予定をなげうってまでもあたしとデートしてくれたし、デート中も終始黙り込んでるあたしに嫌な顔しないでいっぱい話しかけてくれた。時にはあたしの好きなドラマを一緒に見たことも……正直初めは辛かったけど、日に日にこの関係も悪くないと思うようになった」


 出だしのテンションと違い、天束さんがハキハキと黒歴史を語るようになった。

 ムカつくが陰キャにも配慮ができる天性のイケメンなのだろうな。まてよ、相手が天束さんだから無理に演じている可能性も拭いきれん。


 ……少なくともこんな発想をしてしまう僕よりも、信頼される先輩なのはわかる。


「だからこそ、もっと早くに決断すべきだったと思う。あたしは先輩との関係を続けるうちに、心の片隅に潜んでいた恐怖心が、徐々に表に出てくるようになった」


 そりゃそうだろうな。相手が自分に優しくしてくれるならなおさら、胸が引き締められる想いをしたのだろう。


「優しい先輩がその事実を知ってしまったらどうなってしまうのか想像できなくて、考えたら考えるほど自分が嫌になってくる。なんで断れなかったのかって。当時は相談できる人もいなかったし……迷いに迷った末、あたしは先輩が真実を知る前に別れようと決めた」


 まだ湊たちが介入する前の話なのか。その時は同学年の男子にも人気があったんだろうな。


「だけど、言葉選びに苦戦して、何言えばいいか分かんなくて、次第に断る勇気もなくなって、もうバレてもどうにでもなれと自暴自棄になった。そんな時、ふたりと友達になったの。あたしはそれが嬉しくて。ついでに鳥羽ちゃんが貸してくれた恋愛ミステリー小説を読んでたら勇気が湧いてきたから、それが懐にあれば想いを伝えられるかもと思って。ある日の放課後、小説を制服のポケットに忍び込ませて、先輩を体育館裏に呼び出したんだけど」


 よく分からんが小説を片手に別れ話をしたってことか?場所も天束さんが落ち着けるあの体育館裏。勇気があれば断れるってことなんだな!だとしたら上手く行く気がしてきた。


「そっか、それはよっ」


 天束さんの顔が悲しげに曇っている。どうやらここが黒歴史の核心らしい。


「くはないよね」


 まぁ、そんな簡単に断れるはずないよな。勇気が湧いてきただけで上手くやれるなら僕も天束さんも陰キャしてない。


「あたし、きょどっちゃって、頭の中空っぽになっちゃって、その先輩に酷いこと言っちゃった」


「なんて言ったの?」


 僕の質問に天束さんは答えなかった。

 ただでさえサブリミナルフラッシュバックする記憶だ。深くまで詮索は避けるか。


「ごめん、続けて」


「結果的にあたしと先輩は別れたんだけど、先輩はそのあと、何故か転校しちゃったの。あたし、取り返しのつかないことしちゃったと思って、謝ろうとしたけどLAINは既読つかないし、先輩はどこ行っちゃったのか分かんないし……そしたらたまたま一度、池袋で先輩と鉢合わせたことがあって、チャンスだって謝ろうとしたら……」


 天束さんは涙をこらえているかのように口をきつく結んでいる。


「振り向きざまに、こう言われた」


「なんて言ったの?」


「あっ顔だけのクズ女だ……って」


 はっ、へぇ、そう。顔だけのクズ女、ねぇ。


「鵜方くん、なんでそんなニコニコしてるの?」


「いやね、ぜひ名前を教えてほしいんだ。僕のペンケースには丁度カッター入っててさ。八つ裂きじゃちょっと甘いかな?サイコロステーキで御の字って感じ?」


「ま、まって!あたし、見る分には好きだけどそう言うことはしてほしくない!」


「ごめん嘘だよ。見る分?」


 天束さんは美少女なりに壮絶な経験したんだな。その先輩は今すぐにでもしばいてやりたいが、今は天束さんの不安要素を取り除くことに徹しよう。

 

「うーん、僕らみたいなヤツは無意識に黒歴史を量産しちゃうから、おっちょこちょいだったってことでそんな気にしなくてもいいと思うけど」


 と言ってる僕ができてないんですけどね!ダメだ、まだ顔が暗い。この説得じゃ天束さんに効いてないようだ。天束さんにとってこの黒歴史は軽くトラウマなんだろう。何か別の手を使わないとな。


「天束さん、LAIN交換してくれないかな?」


「えっ……いいけど」


 僕はメッセージアプリのQRコードを使って天束さんと友達になる。その際、不覚にも天束さんの友達の数が見えてしまった。その数字は五人。僕よりひとり少ないな。マウントを取る気はない。だって湊以外全員家族だから。


 天束さんは口には出さないけど顔がニカっとした。僕はこれを狙っていた。


 LAINの友達増えて天束さんはめっちゃ内心喜んでるかな。これも勇気に繋がればいいが。LAINを交換した理由はこれだけじゃないんだけどね。


「ちょっと作戦があるんだ。僕たちが隣で天束さんを見ていると思えるような作戦」


「作戦?」


「過去の経験は辛いと思うし、断ろうとするとまたフラッシュバックしてしまうかもしれない。でも今回は僕たちがいる。天束さんの黒歴史は僕が思い出させないから、天束さんは安心して断って欲しいんだ」



「う、うん。そうだね。わかった!」


 フラッシュバックを阻止するなんて僕にはできようもないけど、こうやって口にするだけで天束さんの肩の荷が下りる、と思う。


 あとは作戦と、天束さんの勇気に賭けよう。

 





 っっっっっっっしゃぁ!!天束さんとLAIN交換したぞッッッッ!!!!!!


 見たか同胞共!!!!!!!!

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天束さんとのビミョーな距離カン【中宮高校の人々!(天束姫佳編)】 ホメオスタシス @HOMEOSTASIS

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