残業が当たり前の社畜、鹿見の数少ない楽しみの一つは食事。自炊はもちろん、美味しいお店があったらそこに食べに行くこともあるし、時にはジャンクフードだって悪くない。
彼がご飯を食べるとき、大抵隣にいるのは会社の美人同期、秋津。同期入社であるのみならず、高校の同級生でかつ同じマンションに住んでいる彼女は、営業成績トップで社内でも人気が高い。彼女と親しい関係であることを知られたらご飯を食べて社畜ライフを満喫する生活が維持できなくなる。
そんなわけで鹿見は今日もこっそりと、秋津とごはんを食べに行く。実は秋津はともに外食に行くのみならず、鹿見の家に上がり込み一緒にご飯を食べることもあるのだ。合鍵を持っている彼女はもはや通い妻状態。付き合ってもいないのにこの関係を続けるのはどうなんだろう。鹿見は内心そんな葛藤をしつつも、居心地のよい「現状維持」の生活が変わってしまうのを恐れていた。
そんな鹿見の思惑とは裏腹に、じわりじわりと距離を詰めてくる秋津に加え、部署の後輩である春海、元カノの夏芽なども現れて彼女らとの関係が少しづつ変化していく。
社畜の話、ないし飯テロ要素のある話というのは、ライト文芸に多いというイメージがあります。特に本作は、ヒロインズが登場しないエピソードでも普通に飯テロ要素ががっつり描写されており、ラブコメよりライト文芸の色が濃いという印象を受けました。もちろん、メインヒロインの秋津を中心にしたヒロインズたちとのドキドキするお話もたくさんありますが、糖度は甘すぎず苦すぎずといったところで、安心して読める濃度です。
残業が多いとはいえ、主人公の職場はブラック企業というわけではなさそうです。実際のところ登場人物は比較的常識的な人が多く、社畜ものにありがちな「職場環境がひどすぎて辛い」という展開にはなりません。そのあたりも含め、「ストレスをあまり感じずに、適度な甘さの恋愛ものを楽しめる」という意味でラブコメ初心者でも読みやすい作品です。
ただし先ほど言及した通り、飯テロ要素がかなり多いので空腹時の閲覧は要注意です! 主人公たちが食べているものが美味しそうなのはもちろんのこと、その中身が庶民的であり手が届きそうなことも、「読んでいると食べたくなる」衝動に拍車をかけます。
ライト文芸のような優しい読み口のラブコメに挑戦してみたい方に、是非お勧めしたいです。
(本レビューは、第111話まで読了時点の内容となります)