第9話

 ホテルを出て、空を見上げる。冬の大三角と眩しすぎる月が、視界に飛び込んできた。右側がほんの少しだけ欠けている。可哀そうに。もう、欠けたり満ちたりする月を見ても、何とも思わない。私には、守にかけた呪いがある。ある種のお守りだ。

 誰よりも優しくて、私を大親友だと思ってくれている守にしか効かない、世界でたった一つの呪い。とびっきり優しい言い方と、無理して作った笑顔。彼女を追い詰めるには、この方法が一番効果的だ。

 憎い優しさを壊すための、私から送る最後の呪いのプレゼントだよ。お返しに半年もかかって、ごめんね。

『守が好きな人と結ばれるのなら、私は生涯独り身でいるよ。心変わりなんて、できないから』

 守は、私を忘れられない。誰かに好意を寄せて、両想いになりたいと願う度に、私を思い出す。

 永遠に、苦しめ。そして、ずっと大好きだよ。

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金曜だけは満たされたい 咲谷 紫音 @shionnsakuya

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