時代や宗教、制度や法律。
そうしたひどく曖昧な物差しの上で揺れてきた、善悪という存在。
現代も例によって、その示し方を定められずにいます。あるいは、示し方などありはしないのかもしれません。誰かにとっての善は、誰かにとっての悪であり、両者が交わることは決してないのですから。そもそも、我々に善悪を語る資格はあるのでしょうか。答えが否だとするなら、我々にできることは思索にふけり、いつか善悪が溶け合うことを祈るのみ。
そんなことを感じさせてくれる、含蓄のある作品がこちらになります。
読了後は哀愁に心が軋みました。本当はそんな陳腐な言葉では表現しきれないですが、端的にこの気持ちを伝えるには、他の言葉は思い浮かびません。作品に込められた哲学と、それを仄暗くも燦然と表現する技術力たるや、まさに圧巻の一言です。そして、その熱量を凝縮した硬質な文章。近代文学的な重厚さを伴った、独白調の文章が作品にさらなる深みを持たせていました。これほどの熱量を感じさせてくれる作品は、そうそうお目にかかれないでしょう。
中世ヨーロッパ風の世界観を下地に、善悪の本質に一石を投じた名作です。スコッパーの方々には、一日でも早く掘り起こしてほしい作品の一つです。過小評価されているとは、まさにこのこと。骨太な中世世界の空気感に触れたい方、善悪の哲学を知りたい方に是非とも読んでいただきたい作品です。一人でも多くの方に、この読了後の得も言われぬ気持ちが伝わることを願っています。