スペシャルサンクスSS★ 母として
「明日、その花はどんな彩で咲くのだろう」コラボ
壱嵩side……★
明日花と結婚して数年後——……それなりに生活も落ち着いてきて、幸せな生活を送っていたのだが、避けては通れない悩みを俺達は抱えていた。
重い溜息と共にこの悩みも消えてしまえばどんなに楽になれるだろう。俺は日本酒をチビチビ飲みながらママに相談していた。
「もう壱嵩キュン、そんな悩んでも仕方ないじゃない。案ずるよりも産むが易しよ! 昔の偉人達は良いこと言うわよねー」
「うん、分かってるんですけどね。俺が慎重になりすぎだってことは……」
何だかんだで自分も28歳になり、資格も取得し給料も上がったし、自信もそれなりについてきたけれど。こればかりは自分一人の問題じゃないので安易に決められずにいた。
来店時からウジウジ悩む俺を眺めながら、とうとう堪忍袋の緒を切らしたママは、ある人物に助けを求めた。
「壱嵩キュン、良い助っ人を呼んであげたから相談してみなさい? 今のアナタには彼女の言葉が一番効きそうだわ」
助っ人? 誰だと待っていたら、元気いっぱいな子供を連れた女性がお店の中へと入ってきた。
肩までのボブに勝気な瞳。スレンダーで細身のスキニーデニムが似合うが、どこか色気も漂っていて目が離せない。
あまり年上に興味はなかったが、こんな女性が身近にいたら人生観が変えられたかもしれないと邪な考えが脳裏を掠めた。
「もうママー。急に呼び出すからビックリしたじゃない。
「無問題よ。私が悠愛ちゃんの面倒を見てあげるから、このウジウジイジケ虫ちゃんになった子羊ちゃんを助けてあげて」
——え? ママが言っていた助っ人ってこの人⁉︎
急な展開に頭がついて行かない。
だが彼女は俺の隣に座って「よろしくね」と微笑んできた。
「
「こ、
「へぇ、そうなんだ。こんなイケメンが来てくれたらママも嬉しいわね」
なんだろう、この何とも言えない緊張感は……。
明日花さんと出会って女性に対して免疫はできてきたと思ったのだが、イコさんから漂う魔性の雰囲気は段違いだった。
「ところで何の悩みを抱えているの? 私で解決できることかしら」
「あー……どうなんですかね。俺の悩みは少し特殊というか……。実は俺の奥さん、少しハンディじゃないけど、ADHDという
今までは何があっても自分が支えると覚悟を決めていたが、子供となると自信がなかった。
そう、本当は明日花さんがというよりも、自分が愛された記憶がないから、ちゃんと子供を愛せるか不安なのだ。
「ふぅん。君って優しそうだし、しっかりしてそうだから大丈夫だと思うけどね」
「いや、そんなことないですよ……。正直、ずっと自信はないままです」
どうしようもない相談にイコさんも顔を顰めながらグラスに口を付けていた。そんな彼女に全力で駆けてきた少女、悠愛ちゃんが飛びつくようにジャンプしてきた。
「イコばぁば、何を話しているの? 悠愛も一緒にいたいー」
「もう悠愛! 今は難しいお話をしてるから、二階で遊んでてね」
何とも愛くるしいやり取りが繰り広げられていたが、何か違和感が残る。
イコ……ばぁば⁉︎
「え、親子じゃないんですか⁉︎」
あまりの驚愕に、思わず取り乱しながら叫んでしまった。嘘だろう、こんな容姿でおばあちゃんなんて信じられない。
「あはは、私は15歳の時に娘を妊娠して、その娘も20歳の時に結婚して出産したから、30代でおばあちゃんになっちゃったの。しかもシングルマザーだったし、これでも波乱万丈の人生を送っているのよ」
「そうなんですね……」
気の利いた言葉が出てこない。俺の母親なんて四十路半ばで出産したのに、イコさんはもっと若くでおばあちゃんになったというのだから。
「——壱嵩くんは母親に愛された記憶がないから自信がないって言ってたけど、私は大丈夫だと思うわ」
何を根拠にそんなことを言うのだろう?
無責任なことを言うくらいなら何も言わないほうが優しさだとイコさんを睨みつけた。
「だって赤ちゃんができる前からこんなに悩んで。すごいわよ。私なんて何も考えずに産んじゃって苦労したし、色んな人に迷惑もかけたし」
——またしてもコメントしづらい発言を……。
「それに……私、一度娘のことを裏切ってるの。娘よりも男を選んで見捨てたことがあったわ。なのに娘は私のことを許して、こうして泣きたくなるほど幸せな関係を築いてくれたわ」
「娘さん……すごいですね。俺ならとても許せる気がしません」
「本当にできた娘で頭が上がらないわ。さっきも言ったように15歳で妊娠して、後悔したこともたくさんあった。失敗も沢山してきたわ。でも、人間って不思議よね。どんな辛い過去も、時間が経てば笑い話として話せるようになるの」
「そんな……もんですかね」
「そんなものよ、少なくても私はね。あの時の私には堕す選択もあったけど、産んで良かったと思っているわ」
まるで自分の母親に肯定してもらったような嬉しさが込み上げてきた。
「ちなみに彼女はなんて言ってるの? 子供欲しいって?」
「彼女は……欲しいって。子供が好きらしいです」
「そう、それならアナタは全力で支えるしかないじゃない。頑張りなさい! もし弱気になったら、私がアンタの背中を叩いてあげるわ」
そう言って力一杯振り翳された手の平が背中に打ちかまされた。い、痛い……!
「でもね、きっと子供ができたら悩んでいる暇もないと思うわ。可愛くて可愛くて仕方ないと思うからね」
「そ、そんなもんなんですか?」
「そんなものでしょ? 本当に子供のことが可愛くなかったら、今頃アナタはここにいないわ。赤ちゃんは弱い生き物だからね」
思いがけない言葉に涙が込み上がってきた。
どうしよう、今すぐ彼女に会いたい。会って全力で抱きしめて愛したい。
俺は一万円をカウンターに置いて、敬意を込めて頭を下げた。
「そんな頭を下げないでよー。大したこと言ってないし、私は」
「それでも俺は……イコさんの言葉で決心つきました。ありがとうございます」
「もう、いいから、いいから! ママには私から伝えておくから早く行きなさい」
こうして俺はバーを後にして家路を急いだ。
———……★
「——いいわね、若いって。私もまた恋がしたくなったわ」
「あら、イコもまだ若いんだから恋しちゃいなさい! 何なら私がしょうかいしてあげましょうか?」
「あはは、遠慮するわ。今は悠愛や未呼の世話で
壱嵩のお母さんのエピソード後に……。
障害を抱えていると、子育てに不安覚えるだろうなと思いながら、ちょっとイコさんに背中を押してもらうことにしました。
タンティママさんはスペシャルゲストで……(笑)
何かと今月はツイていなかったkakujc01様に、少しでも癒しになりますように……推し二人を登場させてみました。
NTRされた彼女。孕まされて捨てられたので、一緒に育てることにしました 中村 青 @nakamu-1224
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