6話



フリーダムは不敵な笑みを浮かべると、両手を広げ目を閉じる


「展開……!」


そう発すると、腕と脚の部分に機械が覆い被さり、パワードスーツのようになる


「すごい格好ですね」


「感心している場合ではありませんよ!」


「出力最大……」




轟音と共に、目にも止まらぬ速さで部屋内を縦横無尽に駆け回る、と次の瞬間、クリスタル目掛けて拳を打ち込んできた


「くはっ!?」


クリスタルが突き飛ばされ、壁に叩きつけられる


「クリスタルさん!?」


動きが全く見えない、雅の目には、クリスタルが突然壁に叩きつけられたようにしか見えなかった


「次はそなたの番だ!」


音速で駆け回って雅の後方に回り込むと、壁を蹴り飛ばし、勢いを付け襲いかかる


【Auto REFLECTION】


「なに!?」


【オートリフレクション】の前には速さも無意味、フリーダムの音速で迫った攻撃は弾き返され、とてつもない勢いで壁に激突、そのまま地面に落ちた


「ぐふっ…何が起こった…?」


何が起こったのか分からない様子で、地面に這いつくばっている


「クリスタルさん、大丈夫ですか?」


クリスタルの元に駆け寄り安否を確認する


「はい、何とか大丈夫です…」


よろよろと立ち上がるクリスタルに、肩を貸して支えた


「フリーダムさん、私1本取れましたか?」


「あぁ、こんなにもダメージを負わされたのは初めてだ」


装甲を解除し、その場に座り込むフリーダムは、1本取られたにも関わらず、晴れやかな表情をしている


「そう言えば名前を聞いていなかったな」


「私は天使 雅って言います、そしてこちらがクリスタルさんです」


「クリスタル殿には申し訳のないことをした、これを使ってくれ」


腕の装甲から小瓶を取り出し、こちらへ差し出してきた


「これは?」


「私が造られた時代に使用されていた回復薬だ」


小瓶には、緑色の液体が入っている


(ステちゃん、これ大丈夫かな?)


『これはたまげた、どんな傷も治してしまう万能回復薬だよ!』


クリスタルの頭を膝に寝かせ、受け取った回復薬の蓋を開ける


「クリスタルさん、これ飲んでください」


コクリと頷いたクリスタルに、回復薬を流し込むと、キラキラと全身が光り輝き、みるみる内に傷が癒えていく


「すっご~い!?」


「本当ですね、もうなんともありません」


「無事に効いたようだな」


回復薬の効力に驚いていると、フリーダムも傷が修復されて立ち上がっていた


「はい、このような効力の回復薬は初めて見ました」


「私の時代でも貴重なものではあったが、今の時代には失われてしまったのか」


腕を組み、どこか悲しげに俯くフリーダム


「とにかく、お2人とも回復したみたいでなによりです」


重い雰囲気を悟った雅が、慌てて話題を変える


「うむ、では約束通りそなた達に仕えさせてもらうぞ」


「はい、よろしくお願いしますね、フリーダムさん!」


『フリーダムが仲間になった!』


(ふふ、ステちゃんありがとね)


相変わらず、雅にベタ演出は伝わらない


「フリーダムさん、仲間になっていただけるのはありがたいのですが、なぜ、初対面の私たちと?」


「うむ、私を起動することが出来るのは、本来所有者のみ。君たちが私を起動したということは、所有者の証、という理由では足りぬかな?」


フリーダム起動には所有者が触れなければならない、だが初対面の雅が起動をやってのけてしまった


「えっと、難しい事は分からないんですけど、仕えるっていうのは堅苦しいので、仲間になるってことでどうですか??」


「私は呼称にこだわりはないから、好きに扱ってくれて構わない」


「はい、ありがとうございます!」


雅のウェルカムムードとは裏腹に、クリスタルは警戒を解ききれていなかった


「雅さん、簡単に決めてしまってよろしいのですか?」


「大丈夫です、私人を見る目には自信があるんです!」


グッと親指を立てた右拳を、クリスタルに見せる雅


「ふふ、雅さんがそういうのであればなんだか大丈夫に思えてきました」


雅の屈託の無さに、思わず緊張が解ける


「ところで、そなた達は何故こんな所に来たのだ?」


雅とクリスタルはこれまでの経緯と、これからの目的を大まかに説明した


「なるほど、魔王を討ち倒したいとは、雅殿は見かけによらず大物のようだ」


元の世界に帰りたいからです、とは言えるはずもなく、えへへと笑ってお茶を濁す雅


「話もまとまった事ですし、ギルドへ戻るといたしましょうか」


「はーい!」



新たにフリーダムを仲間に率いれた雅たちは、ギルドへ戻るべくダンジョンの外へ、空はすっかり夕方模様になっていた


「ほぉ、この街もあの頃から随分と変わったものだ」


およそ5000年振りの地上を眺め立ち尽くす姿が、赤い夕陽に染められている


この地上には、もう彼女の知る人は誰1人居ない、孤独なタイムスリップ


「フリーダムさん」


「どうした?」


「あとで美味しいご飯食べに行きましょー!」


フリーダムは造られた人型兵器、食事を摂る必要はないが、何も言わなかった。


純粋な笑顔に何も言えなかった、という方が正しいかもしれない


「私を目覚めさせてくれたのが、そなたで良かった」


「なにかいいましたか?」


先に歩く雅が振り返って首を傾げる


「いや、なんでもないよ」


「ふふ、雅さんって不思議な方でしょう?」


「確かに雅殿と居ると、機械の私の心が安らぐような気がする」


優しい眼差しで雅を見つめる2人


「もぉ~!早くギルドに行きますよ~!」


一行はドロップアイテムの換金と、新たに加わったフリーダムの冒険者登録をしに、ギルドへ足を進めた




「フリーダムさんの手続きも完了致しました、アイテムの方は、総額150,000テリアで買い取らせて頂きますがよろしいですか?」


「150,000!?」


予想外の金額に、思わず受付台に乗り出して聞きなおしてしまう


「は、はい、初日にこれだけの金額の買取りしたのは初めてで、驚いてはいます」


「そうなんですか、やっぱり多い方だったんですね」


「雅さん、クリスタルさん」


ギルドの2階から、ギルドリーダーのブランが声を掛けてきた


「少しお話したいことがありますので、皆さん2階へ来ていただけますか?」


「わ、わかりました」


あれ?何かしたっけなと頭の中を巡らせても、思い当たる節がない


何も悪いことはしてないし大丈夫だと言い聞かせ、ギルドの2階へと登っていく

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異世界転移ってなんですか?〜最強スキルを手に入れたJKが、魔王を倒す旅に出るようです〜 @haramin

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