第21話 バルバデガトーの戦い!?〜後編〜

 イザベルちゃん達は、あっという間にキッシュを食べ終わると、マスターに次の料理を頼む。


「では、次の料理なのじゃ〜。それに、もう一杯白ワインを所望なのじゃ〜」


「私も、ビールを追加で」


「あいよ」


 マスターは、そう言うと厨房へと入る。そして、ビールと白ワインを持って戻ってくる。


 イザベルちゃんは、受け取るとグビッと白ワインを飲む。相変わらず豪快な飲みっぷりだった。



「姫〜、あまり勢い良く飲まれますと~」


「大丈夫なのじゃ〜。じいがおるからの〜」


「はあ。かしこまりました」


 じいは諦めたように、同意する。


 そんな中、2品目が運ばれてきた。


「はい、煮牛ね~」


「煮牛?」


「ハハハ、まあ、適当な言葉がなくてね。まあ、料理的には違うんだけど」


 Estofado de terneraだと、牛肉の煮込みになってしまうそうで、適当な言葉が無かったそうだった。


「こ、これは、牛肉の味が濃厚で美味いのじゃ〜」


「イザベル様ありがとうございます」


「はい、確かに、美味しいですな〜」


「ありがとうございます」


「じゃが、これには赤ワインなのじゃ〜。バーニラ、バニラの赤ワインを欲しいのじゃ〜」


「はい、かしこまりました」


 マスターは、そう言うと、慌てて厨房に飛び込み、急いで赤ワインを持ってくる。


「うむ。グビッ、うむ。美味なのじゃ〜」


「はい、確かに美味しゅうございます」


 イザベルちゃんと、じいは満足気に飲む。


「しかし、煮牛とはもう少し良い名は無いのか?」


「そう、なんですよね~」


 マスターが煮牛について説明する。


 低温にてじっくりと火を通す。これだとローストビーフだが、焼くわけでなく赤ワインの入った出汁で低温で煮る。だから、煮牛。


「うにゅ〜? 煮牛の〜、やはり変じゃの〜」


「ですな」


「でも、美味しかったのじゃ。では、次なのじゃ〜」


「はい、かしこまりました」



 そして、その後も次々と料理をたいらげ、ガブガブとワインを飲むイザベルちゃんに、ちょっとあきれるじい。


「その〜、あまり飲み過ぎませんように……」


「うにゅ? よへいおせなのにゃ〜」


「もう、ちゃんと喋れておりませんぞ、姫」


「うにゅ?」


 じいは、マスターに水を頼み、イザベルちゃんに飲ませる。


「グビッグビッグビッ、プハー」


「姫、どこぞのオヤジのような飲み方はやめて下され」


「うむ。すまぬのじゃ〜」


 ちょっと良いがさめて、イザベルちゃんは、店の状態を確認する。



「も〜お〜、ラブラブなんですよ~」


「ふ〜ん」


 ふと、イザベルちゃんは、クレメントさんと女性のお客さんの方を見る。すると、クレメントさんが良く聞いてくれるからか、女性のお客さんは、まだクレメントさんに喋り続けていた。少しうんざりした表情のクレメントさんがいた。


「で〜」


「え〜と、彼氏の話も結構だけどさ、他になかったの? イビサ島がこういう所だったとか」


「う〜ん? あっ!」


「うんうん」


「イビサ島の海は本当に綺麗でしたよ。綺麗過ぎて船が浮いてるように見えて〜」


「そうそう、そういうのだよ」


「で、その綺麗な海で彼氏に出会って〜」


「えっ?」


「遠距離なんですけど、ちゃんと連絡くれて〜」


「よ~!」


 クレメントさんが突然立ち上がり、掛け声をかける。店内は突然静まり返るが、女性のお客さんは気にせず、クレメントさんに話しかける。


「で〜、その彼氏が〜……」


 その時だった。ちょっと静かになった店内に何事も無かったように座った、クレメントさんの声が響く。


「彼氏以外に得るものなかったの?」


「クレメントさん、言い方強いですよ」


 慌ててマスターが注意する。


「ああ、ごめんごめん。俺、酔ってきたのかな~」


「そうですね~。少し酔いをさまして下さい」


 マスターが穏やかにクレメントさんを諭したが、じいが女性のお客さんに。


「ふん、旅先で何も得るものがないとは、情けない」


「じいも、言い方がきついのじゃ〜」


 今度はイザベルちゃんが、じいを注意する。


「はっ、申し訳ありません」


「でも、良い彼氏なんですよ~」


「うっ。そうなのか、良かったのじゃ」


 イザベルちゃんは、ちょっと返答に窮する。


「良くはありません、姫。甘やかしては駄目ですぞ」


「よ〜!」


「さっきから、じい、言い方がきついのじゃ」


「そうですよ、これでも一応お客さんなので、あまり揉めないで頂きたいと……」


「一応って、ひどい〜」


「黙れ、ブサイクが」


「あ〜、ひどい〜。結構、可愛いって言われるんですよ~」


 イザベルちゃんはお客さんの顔を見る。決してブサイクな顔ではない。愛嬌があって確かに可愛いとも言える。じいのストライクゾーンが狭いのであろう。


「よ〜!」


「顔は重要ですよ。ブサイクは、見ただけでイライラします」


「じい、言いすぎじゃぞ」


「姫、止めないで下され」


 いやっ、止めてはいない、注意しているだけなのじゃ〜。と思うイザベルちゃんだった。


「え〜、ひど〜い」


「黙れ」


 イザベルちゃんは、じいの狂気を見た気がした。


「え〜い、クレメントなんとかせい!」


「よ〜!」


「クレメント、いかがしたのじゃ?」


「よ〜!」


 見ると、クレメントは酔っ払って、声を出しながら踊っていた。カスティーリャ王国の舞踏だろうか?


「カオスなのじゃ〜」


 イザベルちゃんの叫び声がバルバデガトーに響く。

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わがまま姫のレコンキスタ 刃口呑龍(はぐちどんりゅう) @guti3

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