第20話 バルバデガトーの戦い!?〜前編〜
「マスター、少しお久しぶりなのじゃ〜」
「おお、これは、これは、イザベル様。ようこそお越しくださいました。さあ、奥へどうぞ」
「うむ、なのじゃ〜」
カスティーリャ王位継承戦争が終わり、ようやく落ち着きを取り戻すと、イザベルちゃんは久しぶりに街中にあるバルバデガトーへとやってきた。
ちなみにフェルナンド君は、フアナ王女派の貴族の残党狩りに出ていてしばらくいない。これで、イザベルちゃんものんびりとバルバデガトーの料理をゆっくりと楽しむことが出来る。また、太らないようにね~。
「余計なお世話なのじゃ〜」
「どうされました、姫様?」
「うっ、何でもないのじゃ」
「左様ですか」
そのタイミングで、お客さんの女性の1人がマスターに声をかける。
「ねえねえ、聞いてくださいよ~」
「今、案内中だからちょっと待ってね」
と、マスターがお客さんに伝えたはずだが。
「私、イビサ島言ったじゃないですか〜」
「だから、ちょっと待ってて」
マスターの言い方がちょっと強くなる。
「で〜……」
さらに、そうそのお客さんが言った時だった。
「貴様! 少し黙っておれ!」
「えっ、すみません」
じいが突然、その女性を怒り、女性のお客さんはシュンとなる。
「どうしたのじゃ、じい?」
「いえっ、顔を見たらちょっとイラッとしてしまいまして。申し訳ありません」
「いやっ、良いのじゃが」
あまり声を荒げたことのない、じいの言動にちょっとびっくりしたイザベルちゃんだった。
「まあ、それよりもなのじゃ〜。あの軽いのにスカスカじゃないフルーティーな白ワインをお願いなのじゃ〜」
「あっ、私はビールをお願いします」
「あいよ」
マスターは、そう言うと厨房に戻っていく。
「マスタ〜、それで〜」
「だから、今、仕事中。ちゃんと後で聞くから」
「で〜」
どうやら女性のお客さんはめげてないようだった。良かったのじゃ〜、安心したイザベルちゃんだった。
「チッ」
「ん? じい、どうしたのじゃ?」
「いえっ、何でもありませんぞ、姫」
「そうか? なのじゃ〜」
イザベルちゃんは、じいの舌打ちを聞いた気がしたが、そこにはイザベルちゃんの顔を見て、満面の笑みで笑うじいがいた。気のせいなのだろう。
と、そのタイミングで飲み物を持ってマスターがやってくる。
「はい、白ワインとビールね~」
「うむ。なのじゃ」
イザベルちゃんは白ワインを受け取ると、グビッと飲む。
「うむ、美味なのじゃ〜。で、今日は何か美味しい物はあるかの?」
「そうだね~、トルティージャっぽいんだけど、それをちょっと改良したキッシュがあるよ」
「キッシュ?」
「はい」
マスターの説明だと、卵とクリームを使ったペストリーとしては、イタリア料理としてあったそうだが、それがフランスで進化。
パイ生地・タルト生地で作った器の中に、卵、生クリーム、ひき肉やアスパラガスなど野菜を加えて熟成したグリュイエールチーズなどをのせて、オーブンで焼き上げる。ロレーヌ風キッシュ(キッシュ・ロレーヌ)となったそうだ。
「うむ、それを頼むのじゃ〜」
「はいよ」
マスターが厨房に戻る。そう言えば、さっきの女性のお客さんがマスターに声をかけなかった。と、見ると、隣の中年の男性のお客さんと話していた。
「で、どうだったの、イビサ島は?」
「良かったですよ~。彼氏も出来たんですよ~」
「そう、良かったね~」
「でしょ。それで、その彼氏が〜」
と、じいがその男性の顔を見て、声をかける。
「クレメントではないか」
「ん? おう、アソー殿。それに……。これは、大変失礼しました、イザベル様」
女性のお客さんの隣に座っていた中年の男性が振り返り立ち上がると、こちらにやってきて、恭しくひざまずく。
元々は、イケメンなのだろう。長い黒髪を後ろで束ね、長身のやや痩せ型の男だった。ただ、戦場で生きてきた男のようで、その目には凄みがあり、顔にもいくつかの傷があった。
「うむ、苦しゅうないのじゃ〜。で、誰なのじゃ?」
「これは、姫、失礼しました。これなるは、今回の戦いでも活躍したクレメントという騎士です。長年戦い勇名をはせておるのですが、固定の主に使えぬという変わった男ですよ」
「ハハハ、確かに変わり者でしょうな。お初にお目にかかります、クレメント・サッキです」
「うむ、よろしくなのじゃ」
「はっ」
「クレメント、お主もイザベル様と同席されるか?」
「いやいや、それはおそれ多いよ」
「そうか分かった」
「ああ。では、失礼致します、イザベル様」
クレメントはそう言って席に戻った。すると、また隣の女性のお客さんと楽しそうに談笑し始めた。
「イビサ島の海綺麗だった?」
「えっ? 綺麗でしたね~」
「そう」
「それよりも聞いてくださいよ~。彼氏が〜……」
それを見ていたじいの顔が厳しくなる。
「クレメントとあろうものが、あのような者と話すなど……」
「じい、身分で人を判断するななのじゃ〜」
「これは、失礼致しました。申し訳ありません、姫」
「うむ」
そして、マスターが料理を持ってあらわれる。
「は〜い、キッシュね~」
「うむ、美味しそうなのじゃ〜」
そんなに湯気も出ておらず熱さは大丈夫そうだったので、イザベルちゃんは、早速、少し切ると口に放り込んだ。
「パクッ、モグモグなのじゃ〜。美味なのじゃ〜」
「ありがとうございます」
「じいも食べるのじゃ」
「はい、では。ん! これは美味しいですな〜」
「ありがとうございます」
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