第19話 カスティーリャ王位継承戦争の結末
この後、エドゥアルド・アソーや、アルフォンソ・メンドーサ枢機卿は、翌早朝撤退する。
一方のポルトガル王国軍は、完璧王子ジョアン王太子が、戦場にある丘に陣取り、ポルトガル王国軍は、その丘にむけて再集結し、戦場を支配しようと動く。
しかし、敵はすでに撤退済み。ジョアン王太子は、丘の上で勝利宣言すると、悠々と撤退を開始する。
まあ、戦場に最後まで残っていたのはジョアン王太子なので、自分が勝ったと言いたいのもわかる気がするけど。
で、フェルナンド君は、奪取した8本の旗を有効活用する。というか、それが、イザベルちゃんの策の肝だったのだけど。
サモラから出発した伝令は、奪取して一部破き、大きくバツ印を描いた旗をかざして、カスティーリャ王国各地に戦勝の報告に走った。
そう、イザベルちゃんが重視したのは、敵の旗の奪取だった。それを戦いに勝った証として、カスティーリャ王国各地の民衆にしめす。これがこの時代の勝利でもあったのだった。
カスティーリャ王国各地の民衆は、イザベルちゃんの勝利に喜び。カスティーリャ王国の王はイザベルちゃんだという世論で固まったのだった。
一方、ポルトガル王国側はというと、ジョアン王太子は勝利の報告を王都リスボンや、ポルトなどの主要都市へと送った。トロの戦いの勝利、ただし父親の敗北には触れず。そして、各都市で戦勝の祝いを行うように通達する。
まあ、双方とも自分が勝者だと主張したという事だった。
イザベルちゃんも、直ちにトルデシリャスで戦勝の感謝の行列を行い、他の多くの都市でも「神が王とその民に与えた偉大な勝利」を祝うために祝宴や宗教儀式が行われたのだった。さらに、イザベルちゃんは、トレドのサン・フアン・デ・ロス・レイエス修道院に壮大な記念ゴシック様式の寺院を建設する計画をたてる。
両軍はトロの近郊で戦い、まあ結果的には決着はつかない戦いだったとも言えた。ただ、ジョアン王太子が軍隊を再編している間に、イザベルちゃんの策でフェルナンド君は、カスティーリャ王国の全都市と、諸外国に次のように伝えたと伝わっていた。
「ポルトガル人が粉砕された大勝利だった」
これらのニュースに直面して、「ラ・ベルトラネハ」(フアナ)党は解散し、ポルトガル人は王国への帰還を余儀なくされたのだった。 戦争の鍵を握ったのはポルトガル人ではなくカスティーリャの世論だった。
ポルトガル軍の大部分が、フアナ王女とともにポルトガルに後退し、フアナ王女側にはカスティーリャにほとんど軍隊がいなかくなった為に、政治的にはこの戦いは決定的となったのだった。
「勝ったのじゃ〜、勝ったのじゃ〜。やったのじゃ〜」
「姫〜、あまり暴れ回られると、お身体におさわり……。ん?」
「いえっ、姫、その〜、お腹のお子は……?」
「ん? なんの話しなのじゃ? ふぃ〜、ふぃ〜、ふ〜」
イザベルちゃんは、なんの話なのか、さっぱりわかりません。という顔をしつつ、下手な口笛を吹く。
「えっ、ですが……? はあ」
じいは、きつねに摘まれた気持ちだった。
「それよりもなのじゃ。ポルトガル王は、フランスに向かったそうなのじゃ〜」
「えっ、では、急ぎ手を打ちませんと……」
すると、イザベルちゃんは得意満面の笑みで。
「もう手はうったのじゃ〜」
「さすが、イザベル様です」
周囲の取り巻きが褒め称える。
それは、ブルゴーニュ公シャルル豪胆公との同盟締結であり、さらに、どさくさにまぎれて、イザベルちゃんはナバラ王国に出兵。内戦状態だったナバラ王国を傘下に治めると、フランスと国境を接するナバラ王国を要塞化し、フランス王国軍を一度撃退していたのであった。
「どうじゃ」
「出兵……。いつの間に……」
あまりの予想外の出来事に、呆れるじいだった。
まあ、それは良いとして。
アフォンソ5世は、長期フランス王国に滞在し、フランス王国がもっと深く戦いに参加するようルイ11世を説得。すると、仕方なくという感じで、陸が塞がれているなら海と、ノルマン人の海賊ギヨーム・クーロンの艦隊を派遣する。
ただ、その途中。セウタへと向かう、ポルトガルのガレー船 2 隻とクーロンの船 11 隻は、カディスからイギリスに向かう5隻のジェノヴァの武装商船と遭遇。
クーロンは策略によって商人たちを捕らえようとしたが失敗し、戦闘を余儀なくされた。
戦いは、フランス・ポルトガル側が勝利を収めたが、 フランス軍による焼夷兵器の使用により、ジェノヴァの船2隻、フランドルの船1隻だけでなく、ポルトガルのガレー船2隻、クーロンの船2隻が火災で焼失してしまったのだった。
これにより、フランス人とポルトガル人約2500人が死亡。フランスの援軍は、カスティーリャ王国と戦う前に自滅したのだった。
トロの戦いでの戦略的勝利、フランス軍の攻撃の撃退で、フアナ同盟の貴族たちは状況を受け入れることを余儀なくされ、次々と、イザベルちゃん、フェルナンド君に忠誠を誓ったのだった。
戦争はポルトガル国境沿いの小競り合いと、大西洋通商の制圧を巡る海戦の継続に縮小されたのだった。
まだまだ、ポルトガル王国との完全決着はついていなかったが、とりあえず一段落。カスティーリャ王国の支配者は、イザベルちゃんであり、フェルナンド君ということになったのだった。
「ようやく一段落なのじゃ〜、フェルナンドも良くやったなのじゃ〜」
「イザベル。君のためなら、何でもやるよ」
「さすが我が旦那様なのじゃ〜」
「イザベル」
「フェルナンド」
え〜と、本当に近々後継者が誕生しそうだった。あっ、すでに長女は誕生しているけどね。
まだ、諦めていないアフォンソ5世の動向は気になるが、とりあえず一段落。こうして、イザベルちゃんにも日常が戻ったのだった。
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