第18話 トロの戦い②
「いや〜、まいったまいった。こりゃ、完敗だな」
フェルナンド君は、サモラに撤退しつつそう考えていた。武勇でも軍事面でも、ポルトガルのジョアン王太子には敵わない。まあ、そんな感じだった。
それでも、充分時間稼ぎは出きたと思う。戦闘開始から2時間。そして、主戦場であろう中央の戦場からは充分に引き離した。ジョアン王太子の軍勢が、今更、戦場に引き返しても、すでに暗くなっているだろうな。そもそも冬の日暮れは早いし、それに雨も降ってきそうだった。戦闘が開始した時間も遅めなのだ。
「後は、じいにお任せだね。さあ、イザベルに頼まれた仕事をしようと。だけど、その前に」
フェルナンド君は、軍を反転させると。おそらく命令無視してだろう。しつこく追撃してきた軍勢を攻撃する。火縄銃が火を吹き、槍兵が突っ込む。
そして、敵将を捕らえ、戦旗を奪う。
「さて、イザベルに良い土産物が出きた。さあ、戻るか」
そう言うと、悠々とサモラへと撤退したのだった。
フェルナンド君率いるアラゴン王国軍と、ジョアン王太子率いるポルトガル王国軍の戦いは、一番最初に始まったのだった。
ジョアン王太子率いるシュヴァリエの突撃だった。フェルナンド君は充分引きつけると、火縄銃を放つ。
バババババババババ〜ン!
騎士に玉が当たり落馬したり、馬に玉が当たり転がったりする騎馬もあったが、少数だが今やちょっと懐かしい重装騎兵は構わず突っ込んできた。
今度は、フェルナンド君はパイクを持った槍兵を前に出し、待ち受ける。槍兵は重装騎兵を見事受け止めると、押し返す。
重装騎兵が踵を返し後退したところを追撃しようと、こちらの軽騎兵が追撃するが、今度は敵の火縄銃が火を吹く。慌てて、軽騎兵は引き返す。
こういった一連の攻防がしばらく続く。そう、しばらくはフェルナンド君が優勢だった。1万対5千、数でも圧倒的に上回っているしね。
しかし、じわじわと前進し、ジョアン王太子軍を押し込み始めた時だった。
「後方より敵襲!」
「えっ?」
フェルナンド君が振り返ると、シュヴァリエの軽騎兵がこちらへと突撃してきたのだった。少ない兵力なのに軽騎兵を最初から伏兵として伏せてあったようだった。
さらに、前方からもシュヴァリエのこちらは重装騎兵が突撃してきて、さらに火縄銃隊も前進して、火縄銃が火を吹いた。
バババババババババ〜ン
「うわ〜」
前後からの挟撃に、フェルナンド軍が混乱におちいる。
「え〜と、退却〜」
フェルナンド君は、素早く槍兵を重装騎兵に向け、火縄銃を軽騎兵に向け放つと。入れ替わるように軽騎兵を後方からやってきた敵の軽騎兵に向け。そのまま強硬突破させると、火縄銃隊も続き。そのまま撤退を開始した。
血路を開く軽騎兵隊や、しんがりとして、執拗な攻撃を受ける槍兵隊に損害が多く出るが、意外と整然と撤退したのだった。
「くっ。これ以上は時間の無駄だ」
ジョアン王太子は、そう言いつつ、追撃を停止。戦場へと引き返す。
で、中央での戦いは、真正面からの激突となっていた。
左右の戦場ほど多くはなかったが、火縄銃の撃ち合いの後、カスティーリャ軍がポルトガル王国軍に突撃する。その先頭には。
「おりゃ~! 神の御加護を〜!」
メンドーサ枢機卿だった。敵の騎士や兵士をなぎ倒しつつ突っ込む。当然、負傷もするが、お構いなしだった。
1万2千対1万。当初はカスティーリャ軍が、数でも上回っていたので、グイグイと押し込むが、敵の後衛5千が参戦すると、さすがにほぼ互角か、やや押され気味となる。
だが、
「ククク、見つけたぞ~!」
それは、ポルトガル王室旗の持ち手、ドゥアルテ・デ・アルメイダ少尉だった。
枢機卿は、少尉の手を切り落とし、旗を奪おうと手を伸ばすが、少尉は残りの手に旗を移した。 だが、その手すらも切り落とされる。それでも少尉は、取り囲んだ敵によって負わされた傷の下で気を失うまで、歯で空中の旗を支えたのだった。
ポルトガル王室旗をめぐる争いは熾烈を極めた。
「見事なり」
枢機卿はそう言葉を残すと王室旗を伝令に渡す。
「サモラに届けよ」
「はっ!」
「さて、もう少し暴れるか!」
枢機卿は、再び敵を求めて敵軍の中に飛び込む。あなた本当に神聖教の神官?
「神の御加護を〜! おりゃ~!」
この中央の戦いも終わりが近づいていた。じいこと、エドゥアルド・アソーがポルトガル王国軍の側面に、火縄銃を発砲。その後、コロネリア部隊が前進。ポルトガル王国軍は、後衛が対処する。
だが、これで当初の兵力差となるが、1万8千対1万5千。再びカスティーリャ王国軍がポルトガル王国軍を押し込み始めた。
そして、最精鋭部隊の攻撃参加で、ポルトガル軍は崩壊し始める。アフォンソ5世に向かい、両軍がせまる。
「うっ、ジョアンはどうした?」
「はあ、いまだ戦闘中とは思いますが」
「そうか……」
アフォンソ5世は、敵から逃げる為に陣を離れる。ポルトガル国王の旗は、敵に奪われ自らにも敵兵がせまる。
「もはやこれまでか……」
アフォンソ5世は、ジョアン王太子も自分と同じように敗れたと考え、敵兵に突っ込んでの討ち死にまで考えた。
その時だった。
「ごめん!」
アフォンソ5世の近衛兵達が、無理矢理アフォンソ5世の馬を走らせる。
「な、何をする」
「国王陛下がおられてこその、ポルトガル王国です」
「うっ、うむ」
まだまだポルトガル軍は戦っていた。なのに国王が逃亡する。一気に戦線は崩壊し、ポルトガル王国の中央軍は無秩序に逃亡を開始した。フェルナンドの軍や、エドゥアルド・アソーに敗れたポルトガル軍が、秩序正しく撤退したのとはうってかわってだった。
だが、アフォンソ5世にとって運の良いことに、追撃される事なく逃げる事ができ、近衛兵達は、アフォンソ5世をカストロヌーニョに連れて行く事が出来たのだった。
これは、枢機卿に率いられたカスティーリャの中央軍が、アフォンソ5世、あるいはポルトガル貴族の裕福な私財を略奪することに目を向けたからであった。
だが、一方、不運だったのは国王が逃亡した、中央軍の貴族、騎士、兵士だった。
捕らえられた貴族は、身ぐるみ剥がされ捕虜となり、捕虜とならなかった貴族や、騎士、兵士達は逃げ惑いある者はトロへ、ある者はポルトガル方面へと、雨の降る暗闇の中逃走を開始したのだが、すぐ近くを流れるドゥエロ川に落ちたり、泳いで渡ろうとしたりで溺死する者も多数だった。ポルトガル軍は戦死者よりも溺死者の方が多いのではないかと言われる有り様だった。
夜の暗闇と激しい雨のせいで、混乱が戦場を支配する。ただその中で、イザベル派はポルトガル王国軍や、フアナ王女派の旗を8本も奪取したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます