どじょうはおでんの味
馬場 芥
どうじょうやぶり
私の住む地域。山岳地帯に位置するトッチラカン村にはどじょうのおでんなる料理があった。どじょうをまな板に叩きつけて、伸びに伸びきったあやつを鍋に入れて食べるそうな。私はあの小生意気なひげは嫌いだったので、首を切り落としてポチの餌にしてやった。
どじょうという生き物はおでんの味がするそうで、だからどじょうのおでんと言うそうな。じっちゃんに「おでんってなんね」と言うと、「そりゃどじょうの味くさ」なんて返ってくる。どじょうはおでんでおでんはどじょうだそう。
ばっちゃんがどじょうのおでんを作るとき、鍋に水をはって、どじょうを丸ごと入れる。舐めても、やっぱりおでんの味はしない。
どじょうからおでんの味がでる秘訣なるものがあるらしい。
ばっちゃんが酒をたらたら垂らす。
「ばっちゃん。それは酒の味やないとね」
「ううん。それは違かばい。どじょうからおでんの味がようと染みだすための工夫くさ。先人の知恵ば舐めちゃいかん」
ばっちゃんが醤油とちょろちょろ垂らす。
「ばっちゃん。それは酒と醤油の味やないとね」
「ううん。それは違かばい。どじょうからおでんの味がようと染みだすための工夫くさ。先人の知恵ば舐めちゃいかん」
ばっちゃんがみりんと鰹だしをとぷとぷ入れる。
「ばっちゃん。これこそお酒と醤油とみりんと鰹だしばい」
「ううん。お前はなんも分かっちゃないね。これは、どじょうからおでんの味がようと染みだすための工夫くさ。なんばいえば分かるとね。」
ゆで卵も大根も、ましてやこんにゃくさえも突っ込んで、どじょうのおでん。おてんばの皆々が阿波踊りしている。ぶくぶくのぐつぐつ。
そんなこんなで一時間くらい煮れば、さあ、どじょうのおでんのできあがり。くったくたのふにゃふにゃになったどじょう。どじょうもアツアツの水でふやけることになるとはつゆにも思ってなかったそう。どろどろにしょげてる。
じっちゃんが言うには「どじょうのいる川は美味しいんよ。そこにいる魚は、口をパクパクさせて泳いどる」らしい。美味しい成分だけかっさらって、残るのは塩だけ。だから海はしょっぱいみたい。海の魚は偏食家で、あいつらは塩をぺろぺろ舐めて「うまい、うまい」と騒いでる。私は水をゴクゴク。
「ほうら、どじょうからおでんの味がでたやんね」
一口すするとおでんの味。お酒と醤油とみりんと鰹だしの味のする、どじょうの味。しっぽは嫌いだから、軒先のひげ爺さんに投げつけてやった。
どじょうはおでんの味 馬場 芥 @akuta2211
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます