ソルトルーパ

はむはむ

第1話

金曜の夜23時半を回ったところで、延里は目的地に辿り着いた。

4年前から愛車の黄色い原付のライトで、目的地の古びたトンネルを照らす。

トンネルの入り口のてっぺんからは、いかにもな草がだらり、と何本か垂れ下がっている。トンネルの内部も所々内装が剥がれ、汚れ、ラクガキもされている。薄汚い廃トンネルであるそこは、どこなく思い雰囲気と、人を寄せ付けない何かを感じさせる。

さすがは、⚪︎△県の有名な心霊スポットだ。

素直に怖いと思うし、中に入るな!と自分の中の恐怖心が警報を鳴らしている。

確か、入り口では女の呻き声が聞こえ、中に入ると人の影のようなシミが見えたら、トンネルを出る頃には呪われてる、という噂だったか。

本当かどうか定かではないが、このトンネルで人の影のシミを見た人が帰りに交通事故で死亡した件が数件あると聞く。

まぁ、なんというか、ありきたりなウワサだ。

いつの時代も若い世代にウケそうな。


そうはわかっていても、やはり深夜に独り、心霊スポットはシチュエーション的に怖い。

が、まぁ、これも一興だと思おう。

延里は原付の座るところを開き、中から魔法瓶とカップうどんを取り出す。

腹減った。

魔法瓶の中には、数時間前に職場のポットから頂戴したお湯が入っている。本当は昼時が終わったら事務の人が毎度片付けてくれているが、今回はたまたまそのまま放置されており、ポットを自分で片付けついでにお湯をいただいた。

カップうどんは、ここに来るまでにコンビニで買った。きつねうどんの奴だ。

本来であれば、大抵の人はこんな時間、こんな場所でカップうどんは食わないだろう。いや、そもそも何も食わないか。

だけど、延里は違った。今日から、変わった。

27の年になる延里には趣味がなく、仕事のストレスも相まって、趣味を作る事にした。

それが、心霊スポット行くついでにそこで飯を食う、だった。

趣味と一緒に腹も満たせるし、ちょうどいい、効率がいい、と思ったのだ。

ただ。

魔法瓶からこぼれこぼれにお湯を注ぎ、5分くらい出来上がるまでの時間、なんとなくトンネルの奥底に目を奪われる。

あぁ、何を考えていたんだろうか。

この待ち時間、とても怖い。

たぶんだが、うどん出来上がって食べ始めても、ロクに味を楽しめない。

なぜ?

なぜ、もっと早くこうなると気づかなかったのか。うどん片手に持ってる手前、引き返せない。

「ゔぁぁ…あぁぁぁぁ〜…ぁああぁ」

うわぁ…、しかも女の呻き声というのは本当だったらしい。

結構バッチリ目の呻き声がトンネル奥から聞こえてくる。苦しんでるというより、呼んでいる?ようなニュアンスだ。

だが延里は残念ながら、呼ばれても行く事は出来ない。そして、引き下がることも出来ない。

何故なら、片手には今ちょうど出来上がったうどんがあるから。

これを投げ捨て、逃げ帰る倫理的問題を孕んだ解決策もあるが、これを捨てたら次のコンビニまで20分くらい距離がある。

諸々の理由で、ここから逃げるのは却下だ。

それに、呼んでるのであれば行かなくていいだけだ。わざわざ非健康食品片手に、冥界の門を開く必要はない。

ひとまず、延里は原付に跨りながら、うどんを食べ始めた。

暫くすると、襲いかかるかのような突風と、呻き声が同時に延里を襲った。

「ぁぁぁぁあ!!!!」

「あっ!!!!」

思わず、手が滑りうどんを大幅に揺らしてしまい、勢いでお揚げが地面に落下した。

「うわぁ…やっちまったわ…。いや、やられたのか?」

一瞬、拾わずにそのままにしとこうかとも思ったが、一応袋もあるし、やれやれと延里はお揚げを掴み、体を上げたとき。

自分の目の前に、誰か立っているのがわかった。

白い靴。紺のジーパンの様なズボン。

「…」

恐る恐る、顔を上げる。

白いTシャツに、三つ編みの少女がドヤ顔でこっちを見ていた。

「うわ!!!出た!!!」

「おかげさまで!!!」

手からすっぽ抜けそうになったうどんは、少女に無事キャッチされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソルトルーパ はむはむ @hamham00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る