第4話 おにーさんの理由






 恐怖も吹っ飛ぶようなセリフは、とんでもおにーさんから告げられた。

「君が欲しい。付き合ってくれ」

 いきなり飛んできた極上の殺し文句に、ただ固まるわたしの前。

 彼──、エリックさんは、にこやかに述べたのである。



「人を探してるんだ」




〇〇




 掻い摘んで説明しよう。

 彼はエリックさん。北国で育った。家柄は不明。とある理由で『幼いころに出会った子』を探してここまでやってきた。


 東シャトンを探しまわる拠点として構えていたのが例の小屋で、わたしを見つけたのはセント・ジュエルに門前払いを喰らったあとだったらしい。


 もちろんわたしが王族であることも、セント・ジュエルの人間だということも知らずに拾ったのだが、セント・ジュエル う ち に入りたい彼にとってわたしは、渡りに船だったというわけ。


 まあ、その拾った姫が追放されていたのは──予想外だったらしいけど。




 正直、彼の打診は、行くところのないわたしとしては願ったり叶ったりだ。

 半ばヤケクソ、半分以上反骨心だけで出てきてしまったわたしに、旅の目的などあるはずもない。やってみたいことはあるのだろうが、今は、なにをどこからどうしたらいいかわからない状況である。


 しかし、問題はお金だ。

 城から持ち出した、換金できそうなものは、先ほどの小屋において来てしまった。

 

 財布と髪飾り、お気に入りのペーパーナイフと少しの宝飾品。とても大事なものだから取り返したいことを彼に告げると「回収させる」の一言。誰にだよ。



 戸惑うわたしに、さらに。


 「金ならあるし君一人ぐらい増えても問題はない」とさらり。

 続いて、「君は「金も行く当てもなく困っている」。俺は「セント・ジュエルにつながりが欲しい」。いい取引だと思わないか?」と、自信たっぷり続けた。

 ……ほんっとうに、何者だこの人。




 ──そんな──願ったりかなったりの提案に、わたしは……返答に迷った。



 繋がりが欲しいのはわかるが、わたしはあそこと縁が切れたばかりだし。

 ……役に立てるかもわからない。

 リュウダに切られた傷もある。

 歩くにしても、彼ひとりよりもペースは落ちる。

 完全に足手まといだ。



 しかし、彼は『構わない』と即断した。

 そんな即断力と、端々に転がる『立場』の気配に疑問を抱きながらも──わたしと謎のおにーさんとの人探しは、幕を開けたのである。



 

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