第101話 胸騒ぎ

死神たちが言い争っている間も、僕は若木の元にひざまずき、美しい果実に見惚れ続けていた。


レースの衣装を愛らしく着飾った果実。きっと許されるなら何時間でも、いや何日でも眺めていられるだろう。


触ったらどんな感触がするのか、確かめてみたい。そんな衝動に何度も駆られた。

けれども、人間が果実に触れることは許されない。


だからせめて、その姿だけでも記憶に焼き付けようと、僕は一心にジュリアを見つめ続けた。

現世に帰ってからも、鮮明にこの美しい光景を思い浮かべられるように。


しばらくそうしていると、すぐ隣から呼びかけられた。


「ロミ」


顔を上げると、その声の主は紫色のワンピースに全身を包んで、いつの間にか僕の真横に立っていた。


「ジュリア!」


ハリスに続いて、少女の姿のジュリアまで僕に会いに来てくれたのだ。嬉しくて思わず立ち上がる。彼女は少しはにかんで、上目づかいに僕を見上げた。


「ロミとは今生のお別れになると思って、昨日の夢の中で、あんなに熱烈に涙のお別れをしたあとなのに・・・・・・また会えちゃったわね」


それを思い出すと、僕もなんだか気恥ずかしい気持ちになった。


「そうだね。でも会えないよりは、もう一度会えた方がずっといいよ」

「ふふっ。それもそうね」


それから僕は、彼女の両手を優しく握った。


「果実、とても綺麗だよ」


彼女は嬉しそうに頬を赤くした。


「良かった。私ね、ロミが帰ってしまう前に何かできないかと思って、頑張ったの。とても、とっても頑張ったの。だから・・・・・・もっと褒めて」


彼女のささやかなお願いに、僕は一生懸命応える。


「よく頑張ったね、ジュリア。初めて果実を実らせたのに、あんなに綺麗にできるだなんて、君はすごいよ。本当に奇跡みたいだ。この美しい果実のことを、僕はこの先一生忘れない。一生だ」


僕はこんな調子で、ジュリアのことをたくさんたくさん褒めた。


近くでそれを聞いていたハリスとウィルが、思案げにささやき合っている。


「あれが幻覚に向かって話している状態か。見たところ彼、なかなか重症みたいだね。本当にあんな状態で、現世に帰れるのかい?」


「正直、私も半信半疑だ。しかし、少なくともワタリガラス大公はそうおっしゃった」


「ふうん。妙に胸騒ぎがする話だね」


僕はむりやりに首を振って、彼らの会話を頭から締め出した。

そうやってめげずに、ジュリアとの最後の時間を噛み締めた。

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