第89話 来客
ウィルに帰還許可証の話を伝えに行くと、彼はこちらが口を開く前から こう言った。
「君たち、帰還許可証の話はもう聞いたかい?」
お見舞いからの帰り道、僕たちは許可証のことを伝えたらウィルがどんな反応をするかと予想しあっていたものだから、驚いてしまった。
「どうして知っているの?」
僕たちの反応が予想通りだったのか、ウィルはふふっと笑った。
「二人がマキ嬢の元を訪れている間に、ワタリガラス大公が私の元へ いらっしゃったのだよ。そのとき許可証の話を教えていただいた。そのあと、私が彼にロミの居場所を教えたというわけだ」
そういえば、大公はマキの部屋に現れるなり『ロミ少年。ここにいたか。探したぞ』と言っていた。彼がどこを探していたのかを、今さらながらに理解する。
ウィルは穏やかな声で祝福した。
「おめでとう。私も長年の悲願が叶ったような気持ちだよ。なにせティルトのときは、こうして祝ってあげる機会がついぞ来なかったからね」
そのことを考えると、僕は切ない気分に襲われた。せめて隣に立っているオリオの分だけでも、追加で許可証が発行されればいいのに。でもそれは望み薄だとわかっているから、僕はしばらくオリオの顔を見ることができなかった。
この話が終わると、ウィルは何か言いたげに頬杖をついた。
「どうしたの。悩み事?」
尋ねると、彼は「ああ」と表情をかげらせる。そして「これは聞いて驚いてほしい情報なのだが」と、彼は珍しい前置きをして打ち明けた。
「大公殿の帰ったあとにもう一人、来客があった。そしてその来客というのが、大層ご機嫌斜めでね。正直、扱いに困っているのだよ」
ご機嫌斜めな来客? と僕は首を傾げる。
「ねえ誰なの、その来客って?」
オリオはじれったそうに、ウィルをせっつく。
彼はため息まじりに答えた。
「ハリスだよ」
「「ええっ」」
声を合わせて叫ぶ僕たちをよそに、ウィルは困り切った様子で天を仰ぐ。
「とりあえず本人の希望通り、植物園を貸し与えているのだがね。機嫌が悪いわりにいつまで経っても帰ろうとしないのだよ。どうしたものかな・・・・・・」
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