第83話 気づき
全ての質問とその答えを書き留めると、ウィルのインクはようやく止まった。ウィルはメモを見返しながら、ぶつぶつと呟いた。
「その女性は、自分が作り出したものを呪いと称していたそうだが、肉体に影響を与えている時点で、それは単なる呪いではない。そして魂を幻覚によって彼女の望む通りに作り変えるその性質から、ただの病でもありえないと言える。それは死神の世界の用語では、呪いと病の複合体と呼ばれるものだ。それはハリスが長年望んでも届かなかった究極の病と同義でもある」
ウィルはくっくっと喉を鳴らした。
「そんなものがたった一人の人間に作り出されたと知ったら、彼はどんな顔をするだろうか」
その痛快そうな表情とは反対に、僕の心は暗く沈んだ。
すみれのあの人が作り出したものこそが究極の病だと、彼は言った。
ということは。
「ウィルも、ジュリアのことを、すみれの彼女が作った呪いの正体だと考えているんだね」
彼は哀れむように目を細めた。
「そうだな。ロミには申し訳ないが、私はジュリアという病こそが、君をこの世界に連れてきた元凶だと思っている。実を言うと、かなり前からそう勘づいていた」
「ええ、そうなの?」
驚いて少し大きな声で返すと、彼はさらりと心のうちを告白した。
「ハリスが以前植物園で『ジュリアには幻覚症状を起こす呪いの特徴が見られる』と言っていただろう。そのとき思い出したのだよ。君が誰にも見えない少女をまるでそこにいるかのように扱っていたことをね。その時点ですでに私の中では、確信に近かった。君がジュリアと楽しく過ごしているのに水を差すのは野暮だろうと考えて、あえて指摘はしなかったけれど」
僕はうつむいた。
話せば話すほど『ジュリアは呪いの症状にすぎない』という仮説が、事実に変わっていく。
実際、そろそろ認めないわけにはいかなかった。
脳を監視する機械が肉体に装着されていたこと。
魂に強力な呪いがかかっていると診断されたのに、症状らしき症状が現れていないこと。
唯一変わったことがあるとすれば、誰にも見えない少女が見えるようになったことだけ。
そしてジュリアの症状は、脳神経異常と幻覚。
それにすみれのあの人だって、似たようなことを僕に話してくれていた。
それらを総合すると、考えられる結論は一つ。
僕はやはりジュリアという病に殺されかけて、この生死の境の世界に辿り着いたのだろう。
そこまで考えて、僕はある事実に気がついた。
サリアは、呪いが解けない限り僕は現世に帰ることを許されないと言っていた。
もし呪いの正体が本当にジュリアだとしたら。
ジュリアが存在する限り、僕は現世に帰れないということになる。
そこでようやく、僕はティルトの思考に追いついた。
だから彼は、ジュリアを切ろうとしたんだ。
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作者コメント:
ウィルが言及しているのは『第50話 効率』の中の会話です(過去シーン探したい人向け定期)。
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