第4幕
許可証
第82話 死因
「すると、君がこの世界にやってきてしまったのは、そのすみれの女性の策謀が原因である可能性が高いということかい?」
ウィルの家の、僕があてがわれている部屋の中。僕が寝転がっているベッドの横に腰掛けて、ウィルは熱心にメモを取りながら尋ねた。彼のインクは、止まることなく紙の上を滑り続けている。僕は質問への答えを探して、自分の記憶の中へともぐった。
ジュリアを取り返しに行ったあの夜。
僕は気を失って、記憶の中に引き込まれた。そして次に目が覚めたときには、自分の部屋に戻ってきていた。ウィルから聞いて初めて、僕はあのあと丸一日、意識が戻らなかったことを知った。
研究所に忍び込んだことを咎められるかと思ったけれど、全くそんなことはなかった。それどころか、彼は僕の部屋にやってくるなりこう言った。
「ようやく目が覚めたかい。君には訊きたいことが山ほどある。そのまま少し待っていてくれたまえ。すぐに紙とインクを持ってくる」
そして彼は今、いつものように小説執筆の参考として、ここ最近の僕の体験を事細かに書き記している。僕は尋ねられるがまま答え続け、彼の手元には今や、ジュリアと夢の中で話した内容や、ハリスやサリアにジュリアを返して欲しいと掛け合ったこと、マキと話して奪還作戦を決行すると決めたこと、そしてその奪還作戦の様子がぎっしりと並んでいた。彼の質問は流れる川のように次から次へと出てくるので、僕は一緒に奪還作戦に行った人たちがどうなったのか、尋ねる機会すらも見つけることができていなかった。
さっきの彼の質問に、僕は頭を悩ませた。
自分が死にかけているのは、すみれのあの人のせいなのか?
「多分そう・・・・・・なんじゃないかな?」
そんな歯切れの悪い返事をした。本当は『多分』なんて生やさしい表現を使っている場合ではないと、分かっている。あのとき思い出した儀式の記憶が正しいのなら、僕は間違いなく彼女が作った新しい魔法に殺されかけている。
でもそれを否定したい気持ちも、また本当だった。
だって僕が思い出した他の記憶の中では、彼女はいつでも優しかった。
彼女が悪い人だなんて、とても信じられない。
ウィルはまた尋ねた。
「君は少しばかり、自分の命に対して呑気すぎるように思えるよ。なぜ、彼女を糾弾しないんだい?」
理由を問われて、再び考えを巡らせた。
はっきりとした根拠があるわけではなかった。なんとなく、彼女が悪い人とは思えない。それだけの理由だ。
でもウィルは僕の答えを一言も聞き漏らすまいと待ち構えている。だから僕は、思いついたことを、もっともらしく聞こえるように並べた。
「彼女はあのとき、きっと『大切な人』を取り戻すために必死になりすぎて、我を忘れていたんだよ。その証拠に、最後には思いとどまって僕を助けようとしてくれた。きっと一時の気の迷いだったんだ。だから彼女のことを責め立てたくはない。むしろ今頃、彼女が僕のことを生き返らせようとして躍起になっているのじゃないかと思うと、少し心配だよ」
そう伝えると、ウィルはインクを魔法で操りながら、くいっと眉を動かした。
「つくづく君は興味深い感情の動きを持っているね」
「そうかな?」
と僕は首を傾げる。
「ああ。私の図書室に、殺害されて霊になった人間が自分を殺した相手に復讐するという筋書きの本が置いてある。暇があれば読んでみるといい。今の君とは正反対だ」
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