第113話 郵便魔法
ガラスの外には、黄色く光る目玉が二つ、暗闇にぽっかり浮かんでいたのだ。
「わっ」
不気味な光景に、思わず目を覆ってしまった。すると「目を逸らさないで」とでも言うように、ノックの音が激しくなる。
コンコン。
コンコン。
僕は指の隙間から恐る恐る、窓の方を覗き見てみた。するとちょうど目玉の間から、くちばしのようなものが、にゅっと伸びてきて、窓を叩くところだった。
コンコン。
そのくちばしのおかげで、僕はようやく、窓の外にいる存在の正体を見抜いた。
あれはただの目玉じゃない。
一羽のフクロウだ。
「なんだ、よかった」
どっと体の力が抜けた。目玉の正体が、お化けとか悪霊とか呪いとか、そういったものじゃなかったことに、まずは胸をなでおろす。
それから、少し懐かしい気持ちにもなった。グリモーナではよくカラスが窓辺にやってきていたのを、思い出したからだ。
僕はベッドからすべり抜けると、窓を開けてあげた。フクロウはバサリと一度羽ばたいて、部屋の中に入ってくる。そしてびしょ濡れの羽をぶるりと震わせ、ベッド脇のサイドテーブルに止まった。
フクロウの賢そうな黄色い目が、こっちを見つめている。僕は数歩ほど近づくと、控えめに声をかけた。
「こんばんは」
するとフクロウは、次の瞬間、砂のようにサラリと音を立てて崩れた。
「わっ」
僕はこの短い間に二度目となる短い叫び声を上げ、尻もちをついた。しばらくの間、ピクリとも動けなくなる。何が起こったのか、さっぱり分からなかったのだ。
それでも、おっかなびっくり立ち上がってみた。するとサイドテーブルの上からは、フクロウの姿は跡形もなく消えている。でもその代わり、そこには一通の手紙が置かれていた。
僕はこの不思議な状況に、自分なりの説明を試みた。
「もしかしたら、さっきのフクロウは魔法の一種だったのかも。この手紙を届けるための魔法だ」
グリモーナではよく、カラスたちが郵便を運んでいた。それと同じことをするために、誰かが魔法で簡易的なフクロウを作り出し、ここまで飛ばしてきたのだ。かなり魔力が必要そうだけれど、ありえない話ではない。少なくともそう考えれば、フクロウが急に消えてしまったことには納得がいく。誰がそんなことをしたのか、という疑問は残るけれど。
ともかく、僕はフクロウのあとに残された手紙を取り上げてみた。白い横長の封筒の中には、一枚の便箋が入っている。
それを取り出して、広げた。すると一行目には、丁寧な文字で宛名が手書きされている。
『親愛なるロミへ』
次に便箋の最後に視線を走らせた。そこには、差出人の名前。
『ジュリエットより』
僕は思わず息を呑んだ。慌てて、開けっぱなしの窓をバタンと閉める。それからベッドに腰掛けると、僕は中身を読み始めた。
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