第49話 夢幻について

「あれ?」


困惑する僕に、背後の作業台からジュリアの声が聞こえた。

「私、ロミ以外には姿も見えなければ、声も届かないみたい」


僕がパッと振り返ると、彼女はいつの間にか作業台の上に腰掛けていた。彼女の横には、彼女と同じ色をまとった若木が、少女の影に隠れるように立っている。


ジュリアは場所を移動しただけ。

いなくなったわけじゃなかった。

よかった。


「ウィル。僕はジュリアと話していたんだよ。今もそこに座っているよ、ほら」


僕が作業台を指し示すと、ウィルは遠くに立っている看板の文字を読むように目を細めた。


「私には座っているというより、植木鉢の中で立っているように見えるが」

彼にはやはり、少女の姿のジュリアは見えていなかった。


僕は少女の姿のジュリアが今そこにいるのだという事実を、一生懸命説明した。彼はその話を、まるで難しい問題を持ちかけられた学者のように聞いた。


一通り説明し終えても、彼は疑ぐり深い様子だった。

「君にはその少女が、今も見えているのかい?」


僕は作業台の上にいる少女の姿のジュリアを、もう一度確認した。

「うん。ジュリアは今、作業台に腰掛けて退屈そうに足をパタパタさせているよ」


ジュリアは恥ずかしそうに、足を動かすのをやめた。


ウィルは「そうかい」と言った。それはジュリアがそこにいることに対してではなく、僕がジュリアがそこにいるとことを認めたという意味の「そうかい」だった。


彼は尋ねた。

「君は、夢の中の存在が徐々に現実を侵食してきているという状況に、気味悪さを覚えたりはしないのかい?」


それは、今まで考えたことのない視点からの質問だった。ウィルはジュリア現実を蝕んでいるとらえたのだ。


僕は当然、否定した。

「気味悪いなんて思わないよ」


ウィルは興味深げに僕の答えを味わった。

「君は今この瞬間、自分に害をなす存在でなければ、その正体が何であっても構わない、と。なるほど」


彼は心の中で納得がいくと、いつもの優しい調子に戻って言った。

「よければ、少女の姿のジュリアの話をもう少し詳しく聞かせてくれないか。物書きの参考のために、君の体験を書き留めておきたい」


もちろん僕は了承した。

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