雨になって
遠藤みりん
第1話 雨になって
雨の日が嫌いになった。
雨の日には必ず彼女が現れるからだ。
別れを告げた日も今日の様な雨の日だった。彼女は別れの言葉を聞いて落胆したのか持っていた傘を落とし涙を流していた。
僕は彼女の顔を見れずに視界を落とした。彼女が履いていた真っ赤なハイヒールが目に焼き付き忘れる事が出来ない。
次の雨の日の事だ……
傘を差し赤信号で立ち止まっていた。視界の隅に真っ赤なハイヒールが映る。周りを確かめたが彼女は居ない。赤いハイヒールを履いている女性だって見当たらなかった。
それから雨の日は必ず彼女が現れた。
彼女の姿ははっきりと見る事は出来ない。いつも傘を差す視界の隅に真っ赤なハイヒールが映るだけだ。
彼女との会話が思い出される。
「私、雨が好きなんだ」
「私も雨になって空から降ってみたい」
彼女はそんな不思議な事を言っていた。
ある日僕は夢を見る。
雨の夜の帰り道、目線の先には傘も差さずに佇む彼女が見える。彼女は何かを抱いているかの様に見えた。
ゆっくり彼女は近づき僕に何かを言ってくる。
「……なって」
「……なって」
ザァーザァーと雨音にかき消されて聞こえない。
「……なって」
「……になって」
「……雨になって」
僕は目を覚ました。今日も酷い雨だった。
「雨になって」
夢に見た彼女の言葉が思い出される。
夢で彼女が何を抱いているかは分かっていた……
“彼女のお腹には僕との子供が居る”
それに気付いていて僕は彼女に別れを告げた。
「雨になって」
頭に彼女からの言葉が繰り返し聞こえてくる。
「雨になって」
「雨になって」
「雨になって」
僕は気付けば住んでいたマンションの屋上に登り酷い雨の中、地面を見下ろしていた。
「雨になって」
「雨になって」
「雨になって」
彼女の声が繰り返し聞こえてくる。
「雨になろう」
僕はそう呟き、身を投げ“空から降った”
水溜りに混じる僕の血液
視界を塞ぐ様な強い雨
視界の隅に真っ赤なハイヒールが映る
“雨になった僕を彼女は許してくれるだろうか”
雨になって 遠藤みりん @endomirin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます