第4幕(3)

■神社


       正月の神社の境内。遠景には雪化粧した山。上手に鳥居。境内中央で下男が火を焚いている。周りには熊手屋、餅屋、甘酒屋、かんざし屋の屋台。盛んに行き交う村人や子供たち。太鼓や笛の音。

       上手の鳥居を潜って、長吉とゆき登場。


長吉   :「えがったな。おゆきもやっと起きられる様になって。」

ゆき   : 黙ったまま長吉のあとについて歩く。

長吉   :「おらの受験も終わっだし、も少しあったかくなって雪が融けたら、また、みんなで遊びに行くべ?」

ゆき   :「(ふと立ち止まり、独り言の様に)あったかくなって雪が融けたら‥‥。」

長吉   :「(そのまま数歩先に進んで、ふと振り返って)どしただ? 元気ねえな。気分でも悪いだか?」

ゆき   :「(首を横に振って)そっただ事ねえ。長吉ちゃんの試験の結果は、いつになったら分かんだ?」

長吉   :「もうじきだと思うけどな。」

吾助   :「(声のみ)おーい!」


       下手より、吾助が新聞を持って走って来る。


吾助   :「長吉ぃ! 載ってるだ! 中学校の合格発表が新聞に載ってるだぞ!」


       舞台のあちこちから、子供たちが集まって来る。


菊子   :「本当か? で、長吉は合格しただか?」

吾助   :「驚くでねえぞ。長吉は一番で合格だ。」

与一   :「うわーっ! やったでねっか!」

末松   :「一番、一番!」

一松   :「一番だと、どおなんだ?」

吾助   :「何だ、おめ知らねのか? 長吉は、国に金出してもらって中学校さ行けんだ。借金でねえぞ! 給付されるだ。」

菊子   :「おめでと、長吉。これで中学さ行けるだな。」


       ゆき、一人で少し離れた所から子供たちを見つめている。


下男   :「おおい、わらす共! 今年も火の上さ跳んでもらうぞ。誰から飛ぶだ?」

吾助   :「もちろん、長吉からだ!」

子供達  :「そうら行けえ!」


       子供達、長吉の両腕を取って勢いよく放り出す。

       長吉が火を跳び越え、続いて、吾助、与一、菊子、一松、末松が次々に跳び越える。火の上手側には、ゆき一人が残る。


下男   :「おゆきは、去年は火が怖くて長吉に手ぇ取ってもらっただな。今年はどうだ? やっぱり誰かに手ぇ取ってもらうだか?」

ゆき   :「(首を横に振り) おら、一人で飛べる。」

       助走をつける様に後ろに下がり、ふっと顔を上げて長吉を見つめる。

      「長吉ちゃん、ありがとな。」

長吉   :「ん? 何が?」

ゆき   : 答えずに、助走をつけて勢いよくジャンプする。


       炎を跳び越えるゆき。

       炎が高く上がる。

       掻き消えるように、ゆきの姿が消える。

       舞台暗転。


長吉   :「(声のみ) おゆきがいねえ! おゆきー!」

子供達  :「(声のみ) おゆきー!」


       暗い舞台に、静かに雪が降り始める。

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