第3幕(4)
■名主の物置の前
舞台上手から、名主、番頭、それに長吉、吾助、菊子、与一が歩いて来る。
名主 :「おゆきが氷さ盗んでねえだと? んだったら、誰が持ってっただ? おめ達か?」
長吉 :「おら達でもねえ。おゆきは山の沼から取って来ただ。」
名主 :「馬鹿言うでねえ。真夏に凍る沼がどこさあるだ?」
長吉 :「おら達もどこだかは聞いてねっけど・・・。んだったら、おゆきに会わせてけろ。おらがおゆきに聞いてみる。」
名主 :「駄目だ。盗っ人白状するまでは、おゆきには誰にも会わせねえし、何も喰わせねえ。」
吾助 :「ひでえ!」
菊子 :「おゆきが死んでしまうっす!」
名主 :「自業自得だべ。さあ、わしは忙しいんだ。番頭、こいつら帰らせろ。」
長吉 :「おゆきに会わせてけろ。」
番頭 :「さあさあ、わらすは帰った、帰った。」
大人達に追い払われて、子供たち、舞台上手に退場する。
■名主の物置の中
舞台は暗く、夜の情景。フクロウの声。わら束に突っ伏しておゆきが泣き寝入っている。
長吉 :「(低く声のみ)おゆき。おゆき。」
ゆき :「(顔を起こして) 長吉ちゃんか?」
物置の高窓が開いて、長吉が顔を出す。
ゆき :「(大声で)長吉ちゃん!」
長吉 :「(指を口に当てて) しーっ! (窓から風呂敷包みを示して、) 腹減っただべ? 母っちゃに握り飯こさえてもらったから、食べろ。(包みを窓から落とす)」
ゆき :「(包みを受け止めて)うん!」
握り飯を出して、夢中で食べ始める。
長吉 :「(ゆきが一つ食べるのを待って) なあ、おゆき。」
ゆき :「(顔を上げて) ん?」
長吉 :「おめ、あの氷、どっから持って来ただ?」
ゆき : 食事をやめてうなだれる。
長吉 :「おらにも言えねえのか?」
ゆき :「(しばしうなだれた後、さっと顔を上げて) でも、おら、盗っ人なんかしてねえ。」
長吉 :「分かってる。だけど、おめがあの氷さどっから持って来たか言ってくれねば、説明のしようがねえべ。」
ゆき :「(泣きそうな声で) だけど、おら、まんず盗んでなんかねえだ。信じてけろ。」
長吉 :「(しばし、考える。急に元気よく) おゆき、心配すんな。おらがきっと助けてやっから!」
ゆき :「(ぱっと顔を上げて) 本当?」
長吉 :「おらに任せとけ。」
ゆき :「うん!」
長吉 :「じゃあ、人に見つかるといけねえから、おら、今夜はもう行くけど、しばらくの辛抱だからな。頑張れ。」
ゆき :「うん! ありがと、長吉ちゃん。」
長吉 :「んじゃな。」 高窓をパタンと閉じる。
舞台、暗転。
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