第3幕(3)
■夏の野っ原
舞台、中央のひまわりの花が重たげに首をかしげる。せみしぐれがニイニイゼミからヒグラシに変わる。夕焼け空。
舞台上手より、子供たち、手に手に鎌やざるを持って現れる。
与一 :「おらとこの芋さ、でかかったべや?」
長吉 :「まんず、暗くなるのが早くなっただな。」
菊子 :「あ! 一松ちゃんが来る。」
吾助 :「(下手に向かって) おーい、一松ぅ! 末松、元気になっただかあ?」
一松、下手より無言でずんずんと歩いて来ると、いきなり、ゆきの頬を引っぱたく。
ゆき :「痛い!」
長吉 :「(一松の腕を取って) 何すっだ、いきなり!?」
一松 :「(長吉の手を払って) おゆき! おめ、あの氷さ、どこさから取って来ただ!?」
ゆき : 無言でうなだれる。
長吉 :「なして、そっただ事‥‥?」
一松 :「(長吉に向かって)おめに聞いてねえべ! (ゆきに向かって) おゆき、おめ、名主様の土蔵から氷さ盗んだべ!?」
ゆき :「(さっと顔を上げて) そっただ事、してねえ!」
一松 :「うそこけ! だら、あの氷、どっから取って来ただ! 言えねえべ! おめのせいで、おらとこぁ小作地取り上げられっだ。この村さいられなくなんだ!」
与一 :「まんず!?」
一松 : ゆきの腕をねじあげる。
ゆき :「いたっ!」
一松 :「こっちさ来!」
ゆきを下手に引きずって行く。
ゆき :「おら、盗んでねえ。盗んでなんかいね!」
長吉 :「待てや、一松!」
一松を追って下手に去って行く。
残った子供たち、無言で下手を見詰める。しばらくして、
名主 :「(声のみ) おめか!? わすの氷さ盗んだのは!」
激しい打擲の音。
ゆき :「(声のみ)きゃん!」
名主 :「(声のみ)おめみてえな盗っ人、物置さ放り込んでやる!」
重そうな扉が開き、閉まる音。
しばらくして、下手から、長吉がとぼとぼと戻って来る。ひまわりの根元にドサッと座り込む。
吾助 :「おゆき、どうした?」
長吉 :「盗んでねって言い張ってる。んだもんで、名主様、ますます怒っちまって、おらの話なんか聞いてもくれね。(がばっと跳ね起きると)な、みんな、おらに力貸してけろ。おらと一緒に名主様のとこさ行って、おゆきは無実だって話してけろ。」
与一 :「んだ事言ったってなあ・・・。なら、おゆきはどこからあの氷さ取って来ただ? いくら山の上だって、こっただ真夏に氷張ってる沼はねえべ。」
子供たち、銘々その場に座り込む。
長吉 :「おゆきは盗っ人なんかじゃねえ。おらが一番よく知ってる。」
与一 :「んだってなあ・・・。」
吾助 :「(立ち上がり) おら、おゆきを信じる。」
与一 :「(とがめる様に) 吾助ちゃあん。」
吾助 :「考えてみれ。おゆきに土蔵の氷が盗める訳ねえ。それに、おゆきが無実になれば、一松達だって村さ出ねで済むだ。みんなで名主様に掛け合ってみるべ。」
菊子 :「(立ち上がり) んだな。」
与一 :「(座ったまま、皆に背を向けて) おら、一抜けた。」
菊子 :「なしてえ?」
与一 :「そっただ事首突っ込んで、こっちまでお仕置きされたら割が合わねえべ。」
吾助 :「(しばらく考えると、与一の前に立ち、いきなり、与一の顔の前に腕を突き出す) なあ、与一。これが何か分かるべ?」
与一 :「ん? げんこつだべ?」
吾助 :「そっだ! で、おらがこれで何すっか分かっか?」
与一 :「(吾助を見、げんこつを見、しばし間をおき、急に立ち上がると)
みんな、何してるだ? 早く名主様のとこさ行くべえ!」
一人で下手に走って行く。
吾助 :「(与一を見送り、あとの二人に振り返って) それじゃ、おら達も行くべ。」
下手に向かって歩き出す。
長吉と菊子: 顔を見合す。
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