第1幕(2)

■長吉の家


       舞台上手に長吉の家、下手には薪置場。薪の山には雪が積もっている。

       家の中では長吉が眠り、かたわらで、母っちゃが出掛ける支度をしている。

       薪置場の前には五人の子供たち。母っちゃは、炭俵を背負い、家を出たところで子供たちに出くわす。


母っちゃ :「あれえ、吾助ちゃんたち! 長吉の見舞いさ来てくれただか?」

吾助   :「んだ。長吉は目ぇ覚ましただか?」

母っちゃ :「(首を横に振る)いいや、まあだ眠ったままだし、熱も下がらね。」

菊子   :「おばちゃん、町さ行くだか?」

母っちゃ :「いつまでも看病ばっかしてらんねえし、父っちゃが持って来た炭売らねば、父っちゃに悪いしな。」


       母っちゃ、炭俵を背負って舞台下手に去って行く。

       子供たち、しばらくそれを見送る。

       薪置場の前にいた一松と末松が騒ぎ始める。


一松   :「おーい! 見慣れねえわらしっ子がいっぞお!」

吾助   :「どしただ、一松、末松?」


       子供たち、薪置場に集まる。

       薪の陰からおゆきが押し出されて来る。


吾助   :「なんだ、おめえ? どっから来ただ?」

ゆき   :(無言でうつむく)

吾助   :「おめ、口きけねえのか? どっから来ただか言ってみれ。」


       子供たち、うつむいたままのおゆきを取り囲む。


与一   :「迷子でねえか?」

一松   :「捨て子でねえか?」

菊子   :「ここらじゃ見かけねえ娘っ子だべ。」

与一   :「ぺっこ、めんこいでねっか?」

吾助   :「おい! おめ、誰だ? ここで何やってた? 答えねえと承知しねえぞ!」(げんこつを振り上げる)


       子供たちが騒いでいる間に、家の中では長吉が床の上に体を起こす。しばらく様子を見ていたが、やがて、床を離れ半纏を着て、戸口から出て来る。


長吉   :「おめら、何騒いでいるだ?」

子供たち :「(一斉に振り返って)長吉!」

吾助   :「おめ、起きられるだか?」

長吉   :「うん。だけど、おら、確か父っちゃと雪ん中歩いていただよな。なして、うちで寝てんだべ? それはそうと、おめら、何やってんだ?」

吾助   :「それが、この娘っ子がよ ----」


       と、吾助が長吉におゆきを示すよりも早く、おゆきは吾助の手をすり抜けて長吉に駆け寄り、長吉の陰に隠れる。


長吉   :「誰だ、このわらしっ子?」

吾助   :「おめんちの薪置場隠れてたんだ。おめの親戚か?」

長吉   :「いんや、こんなわらしっ子見たことねえ。(おゆきの顔を覗き込んで)おめ、どっから来ただ?」

ゆき   :(舞台下手を指さす)

長吉   :「おらとこ来ただか?」

ゆき   :(黙ってうなずく)

長吉   :「名前は何てんだ?」

ゆき   :「(小声で)ゆき」

長吉   :「ふうん、おゆきか? 雪みねえに真っ白だもんな。だけど、どおすべ? 母っちゃなら知ってっかも知れねっけど。」

菊子   :「おばちゃんなら、さっき、炭俵持って町さ売りに行ったぞ。」

長吉   :「んだか? なら、おら、ちょっと行って来っから。」


       長吉、おゆきを連れて下手へ歩いて行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る