第1幕(1)
■山道
舞台は暗く、雪が降っている。
激しい風の音。
舞台上手より、父っちゃが炭俵を3俵背負って、続いて長吉が1俵背負って歩いて来る。
父っちゃ :「(歩きながら)ええい、いまいましい。たった今まで晴れてただに、こっただ吹雪になるたぁ!
まだ昼間だってのに、ちいっと先も見えやしね。
おーい、長吉ィ! ついて来てるだかあ!?」
長吉 :「おら、大丈夫(でえじょうぶ)だ。父っちゃのすぐ後ろにいる。村はまだだべか。」
父っちゃ :「まあだだ。長吉、おめ、まだ炭俵さ背負ってっか?」
長吉 :「背負ってる。」
父っちゃ :「だったら、その俵、そこさ放れ!」
長吉 :「そっただ事ォ! 父っちゃが夏中焼いた炭でねえか!」
父っちゃ :「ええから放れ! そっただもん背負ってたら、おめが潰れちまうぞ!」
長吉 :「(炭俵をその場に投げ出し)放った! 父っちゃも早く放れ!」
父っちゃ :「バカ言うでね。おらぁ、おめと違って三十年も炭俵さ背負ってこの山歩いてるだ。それに、この俵さ持って帰って町で売らねば年が越せねんだ。おめは、おらの後を見失わねようにして歩けよ。」
二人、吹雪の中を黙々と歩き続ける。
父っちゃ :「(激しく喘ぎつつ)それにして、なして、こっただ日に山さ入っちまっただか。おらの勘もなまったもんよ。
おーい、長吉ィ! ついて来てるだかァ!」
長吉 :「(喘ぎ声で)あぁ!」
父っちゃ :「どした? ついて来てるだかぁ(その場に倒れる)」
長吉 :「父っちゃ! (雪に足を取られながら駆け寄り)父っちゃ! 目ェ開けてけろ、父っちゃ!」
ふいに吹雪が止む。
静寂に包まれた中、長吉は顔を上げる。
舞台下手に、真っ白な着物姿の娘が現れる。
長吉 :「おめ、誰だ!?」
娘 :「おらは雪ん子。雪女になるため、十二の歳までに百人の人間を凍え死なせねばなんね。」
長吉 :「おめが父っちゃを殺しただか? 吹雪さ起こして!」
娘 :「んだ。本当なら、おめも殺さねばなんねんだ。だけど、出来ね。やっと一人凍えさせただに、百人なんて出来ね。
おめ、おらの事、誰にも言わねでくれっか? 言わねって約束してくれたら、おら、おめの事は殺さね。
ええな、約束だからな。」
娘の姿は闇に消え、長吉はその場に倒れる。
暗転。
闇の中に人々の声。
村人A :「いたぞお! 長兵衛がいたぞお!」
村人B :「だめだ、こと切れてる。」
村人C :「おっ! おーい! 生きてるぞお! 長吉が生きてるぞお!!」
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