永遠(とわ)の終わり

 腐臭立ち込める真夜中の森の中、錬金術師と森人の二人は静かに月を眺めている。

 「・・月・・綺麗ね・・」

 「・・そう・・かな・・」

 泣きじゃくって完全に目を真っ赤にしている森人のエミル、膝を組んで静かに横たわるメリッタの隣にすわって静かに月を眺めている。

 「・・エミル・・あやまらないと・・いけない・・事があるかな・・」

 「なぁに・・?」

 「・・あたしが・・エミルを・・元の世界へ返す約束・・はたせなくなった・・」

 「え・・? メリッタの体って自然治癒力が半端なかったじゃない!腕もくっついたし・・」

 「・・うん・・だけど・・これだけ・・体が損傷がひどいと・・治らないかな・・すでに・・壊死が・・はじまっている・・」

 「うそ・・」

 エミルは地面に両手をついてまじまじとメリッタの体を観察する。

 ・・指先が灰のように粉になり、すでになくなっていた。

 「え・・嘘・・嘘よね・・ずっといっしょにいてくれて・・そして元の世界に絶対に返すって・・」

 「・・ごめん・・あたし・・は・・今日で終わり・・どうしようもない・・かな・・」

 「そんな!!やだ!!やだあああ!!」

 エミルが涙を垂らし、また泣きじゃくりだす。まだ壊死がはじまってない手でそっとエミルの頬に触れる。

 「き・・吸血鬼・・も完全な・・不死じゃ・・ない・・再生が追いつかないほど・・よわれば・・駄目・・」

 「なんで・・あたしのお乳で食欲も解決したじゃない・・まだ・・なにが・・」

 「わからない・・やはり・・本物の・・血を・・吸わないと・・だめ・・なのかな・・」

 「じゃあ!!今すぐ私の血をすって!!メリー!!!はやく!!」

 とっさに身を乗り出し、服を引き破り、首元をさらしだす。そして首元をメリッタにつかづけた。

 しかし、メリッタは首を横に振る。

 「血を・・すったら・・エミルが・・終わる・・そうしたら・・あたしが・・今いる意味が・・ない・・かな」

 「じゃあ!どうしろというのよ!!・・そうか・・それじゃあ!!」

 エミルはとっさに道具袋からナイフを取り出す。そして手を斬りつけようとした。

 「やめて!!エミル!!!」

 「!」

 「・・エミルが・・傷つくのを・・みたくない・・お願い・・やめて・・どちらにせよ・・人一人・・吸い殺すぐらいでないと・・たぶん・・回復しきれない・・から・・無駄・・かな・・」

 「そんな!!」

 そして物心ついてから一度も涙をながしたことないメリッタが初めて本当の涙をながした。

 「本当に・・ごめんなさい・・エミル・・なにかあった・・ら・・グレイを・・頼って・・彼女は・・信頼・・できる・・から・・あ・・意識が・・遠くなってきた・・かな・・おそそろ・・お別れ・・」

 「やだ やだ やだ!!メリー!!死なないで!!」

 「ごめんね・・エミル・・さ・・ような・・ら・・ご・・めんね・・師匠・・また・・あいたかった・・」


 ─パリィン!!

 その瞬間、メリーが液体金属で包んでいた膜が砕けた。

 「!?なに!?急に」

 「・・あたし・・は・・まだ・・生きて・・ミスリルが・・止まるわけ・・」

 

 「あら、ずいぶん泣き言いうようになったのね。メリッタ」

 「!?・・その声は・・」

 メリッタとエミルの前にいたのは、白兎の当目・・狩人だった。

 「・・狩人・・なぜ・・ここに・・」

 「狩人さん・・」

 彼女は髪の毛を指でいじりながら話す。

 「なぜって、わたしも黒札だからよ。匂いで魔獣の場所を探るなんてさすがね。わたしがみこんだだけはあるわ。まぁ、魔獣の性質を見誤った最初の攻めがダメダメだったけど」

 「・・さいご・・に・・狩人にも・・看取られて・・幸せかな・・」

 「だから・・なに泣き言いっているってのよ。わたしが来た理由わかるわよね」

 「・・!・・狩人・・は・・不死人・・」

 それをエミルは驚いて狩人を二度見する。

 「え?不死人!?吸血鬼でなくて?私達森人より上の存在なの?」

 「まぁ、普通の生物の一人だけど、理由があって死ねないだけ。わたしの血はいくら飲んでも絶対に死ぬことがないから・・わかるわね・・メリッタ・・」

 狩人は得物の鎌を地面に突き刺すと上着を脱ぎながらゆっくりとメリッタに近寄る。

 そして、メリッタに覆いかぶさるように抱きつく。

 「・・さぁ・・おいで・・メリッタ・・」

 「・・うん・・狩人・・」

 メリッタは最後の力を振り絞って、大きな牙の生えた口を開く。


 ***


 メリッタの吸血は小一時間も続いた。ぐったりとなった狩人を逆に抑え込み。むさぼるように獣のように血を吸い続ける。

 「あは・・♡・・とても・・いい子ね・・メリッタ・・」

 その光景を目の当たりにしたエミルはあまりの凄惨な状況に震えがとまらなかった。

 (あの・・メリーが・・完全に別人・・に・・こんな・・怪物のようなメリー・・見たな姿・・見たことない・・)

 「ぷは!!」

 メリッタが狩人の首から牙を引き抜き、体をのけぞらせる。

 壊死していた指はみるみる肉がついていき、千切れた下半身はまるで生き物のように肉がはいだし、メリッタの上半身に癒着・・そして一瞬にして肉と皮がはり元通りになった。

 本当の吸血鬼をみたエミルは完全に震えがとまらなくなった。メリッタは・・吸血鬼とは・・いったいなにものなのか・・。

 

 「・・狩人・・ありがとう・・これでまたエミルを守れる・・」

 「ふふ♡いいのよ・・あなたの罪はまだまだ償いきれないのだから・・」

 狩人は血だらけの身をゆっくりと起こした。

 「大丈夫・・?狩人・・」

 「大丈夫っていったじゃない。それより・・これ・・」

 狩人は道具袋にはいっていた本を手にわたす。

 「これ・・は・・錬金術の術書・・著者・・は・・名前が・・よごれてるかな・・でも・・苗字が・・!トウカ師匠と同じ!?」

 「貴方・・話によると母乳で食いつないでいたそうね」

 メリーとエミルは顔を真っ赤にさせてなんどもうなずく。

 「ふふ・・たしかに母乳は血液からつくられるけど、殆どろ過されて必要な栄養しかでてこない・・白色なのもそのため・・血の色がないわけよね・・だから吸血鬼の体を維持するにはやはり不十分なの。かといってわたしが常にあなたのそばにいるわけにはいかない・・だから・・」

 「うん・・」

 「それは異国で手に入れた錬金術の研究所・・著者は不明だけど・・その人も人体錬成を研究していた・・で、そのうちの副産物の人工血液の研究書物・・」

 「あ・・あたしの作るのは不完全だった・・」

 「それはほぼ完全に生成できるみたいなことが書いてあるの」

 「・・え・・本当に・・」

 「あなたはその研究を完成させなさい。続きを貴方が考えるの。完成すれば、貴方の飢えは完全に解決し、そして多くの人の命も救うことができる。戦場での戦士や騎士の死因は出血多量。完璧な血液がつくれればその命をつなぐこともできる」

 「うん・・」

 狩人はゆっくりと起き上がると血だらけの体を隠すようにあらためて服を羽織る。

 「これが達成できれば貴方はまだ先にいける。エミルを元の世界に戻すのも達成できるし、もっとあなたは人の命を救うことができるわ」

 「・・狩人・・ありがとう・・」

 エミルも駆け寄り、狩人の手をとって手に額をつけて全身全霊をこめて感謝をこめる。

 「か・・狩人さん!!本当に・・ありがとうございます!!」

 ちょっと赤面する狩人だが・・。

 「その本・・あっちこっちに渡されていたそうよ・・他の研究者に・・ なんだか・・黒髪のめずらしい眼鏡をかけた女性だったらしいわ・・もしかするとその本を集めるとエミルを返す手段もあるかもしれないわ・・」

 「うん・・事がおわって・・お金がたまったら・・エミルと世界を旅をするつもりだったから・・」

 「だったら・・生きる努力を怠らないこと・・あきらめたら始まりもしないのだから・・」

 そういうと狩人はまるで舞うようにくるっと回って去っていった。

 ・・笑顔がちらりと見えた・・。

 メリッタとエミルが狩人の姿が見えなくなるまで頭を下げた。

 「・・エミル・・」

 「・・うん・・なぁに・・メリッタ・・」

 「もうあきらめない・・かな・・」

 「そうね・・貴方とみる新しい世界が楽しみだから・・わたしも強くなって貴方を守るから・・一緒に進みましょう?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吸血鬼になった錬金術師と異世界の森人 ーオストの風 外伝ー 笹原 篝火 @kagarisasahara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ