夜の魔獣
グレイの号令と同時に歓声が上がり、それぞれ冒険者らが森の中に森の中に消えていく。
そして、グレイも一党らに意気をかけそしてゆっくりと森の中に消えていった。
それを見届け、伸びをするメリッタ。
「うん・・じゃ、あたしたちも動こうかな・・」
あまりの緊張の為か息をすでに切らしているエミル。その声を聞いた同時に一気に表情が変わり、手早く弓を持ち、弓かごを整える。
「うん、いこっかミリー」
「でも、弓はかまえなくてもいいかな・・作戦では全員で一斉攻撃っていっていたし・・」
「あ・・だよね・・すっかり忘れてた・・」
「まぁ・・すぐに交戦になる可能性は十分にあるから・・いいとは思う・・かな・・あたしも・・すでに準備は整えてるし・・」
メリッタの影にちらちらと見える液体金属。すでにすぐに攻撃に移れる体制にあった。夜の魔獣と遭遇した瞬間に攻撃される可能性はゼロではない。けん制しながらの退避も作戦行動にはしっかり入れてあった。
すでにエミルは夜の魔獣と遭遇し襲われいるのでその情報は二人で共有していた。なぜグレイらに伝えなかったというとやはりわだかまりがあったため信用されない思っていたからだ。
(エミルから聞いている限りでは四本足で立つ真っ黒い影のような生き物・・牙が無数にあるが目はないように見える。ようは目線でどう動くかの予測は不可能ってところかな・・それに・・素早さが尋常でないのもエミルから聞いていたし・・目で追えなかったっていってたから・・瞬時に腹に噛みつかれ・・木のうろに逃げるのが精一杯っていってたから・・それに・・)
そうすでに夜の魔獣の存在にはメリッタには気づいていた。
(物凄い血の匂いを漂わせているから・・すぐ・・わかるかな・・もうここまで匂いが伝わってきている・・)
メリッタは吸血鬼であるため、血の匂いに非常に敏感。すでにその匂いに気づいていた。村ひとつ滅ぼし、食いつくした化け物。血の匂いがこびりついてて当たり前だった。
「エミル・・このまま南に・・いくかな・・もう、魔獣の居場所は検討ついた・・」
「え・・本当?」
「うん、人食いの化け物・・血の匂いは消せない・・かな・・凄い匂いがここまで漂っている・・」
「わ・・わかった・・で、見つけ次第・・発光玉を撃てば・・いいんだよね・・」
「うん・・じゃ・・いこうか・・」
メリッタとエミルもその匂いがする森の奥へゆっくりとすすんだ。
***
「幸いなのは、あたしもエミルも夜目が効くってこと・・光で気づかれることはないかな・・明かりなしでも森を進めるから・・」
「だねぇ・・森人に生まれてよかったよ。わたしたち夜戦向けだものね!」
「というか、エミルが初めて襲われたとき、なにで気づかれたの・・かな・・」
「うん、そこなのよね。食料を探すためにうろの周りを探してたらすでに目の前にたってたの。弓で射ようと構えようとした時にはすでに足音もたてずに至近距離にいたのよ・・そのままお腹にかみつかれたから激痛でなにをしたかわからなかった・・記憶にないの・・どうやって振り払ったかも・・」
(うーん、神経系の毒も持っているかも知れない・・かな・・痛だけで意識が朦朧になるのはまりありえないし・・)
あと目が見えないってのも気になった点でもあった。
もしかすると目自体を持っていない魔物の可能性がある。
ということは別ななにかでこちらを識別している可能性もあるのだ。
魔獣の動きを目で追えないだけではなく、こちらが目で認識するまえに先に認識され攻撃される可能性がある。
(非常に厄介な相手・・かな・・夜の魔獣は・・)
***
「あれ・・もう崖で道が・・」
歩みを進めると崖が見え始めた。これ以上は進めないような高さだ。
「道を間違えたかなぁ・・メリー・・」
「・・エミル・・あまり周りを見ないほうがいい・・かな・・」
「え?・・!!あ・・」
足をとめたメリッタにぶつかりエミルはよろける。そしてそのメリッタの声にはっとして周りを見渡した。そしてその異様さに猛烈な吐き気を覚える。夜目が効くのが裏目になった。
「うぷ・・・おぇぇ・・」
「エミル・・気をしっかりかな・・嗚咽している・・場合じゃない・・」
あまりにも凄惨な光景だった。
一面にはちぎれた手足・・上半身だけになった胴体・・そして内臓が散乱・・草は血で真っ赤に染めあがっており、ハエが飛び回っている。
首も転がっていた・・すべて・・女性・・や子供だ。
(・・餌場・・かな・・ここに人を持ってきて食べてた・・って感じ・・)
「うぇ・・」
「エミル・・気をしっかり・・」
しかし、この場に来たのが失敗だった。確かに魔獣は血の匂いを漂わせているが、遺体が大量に散乱した餌場。ようは魔獣自体の匂いもかき消される。
「うぷ・・メリー・・だいじょ・・あ!! 後ろ!!メリー!!!」
「!?」
急に怯えだしてたエミルに気づき、とっさに背後を振り向くメリッタ。
すでに魔獣が目の前にたっていた。魔獣がいるかもしれなかった餌場に警戒せず入ってしまったのが失策だった。
幾多にも牙が生えた口が涎をたらしながらゆっくりと開く。
「!! ミスリル!!」
メリッタはとっさに液体金属を刃物状に展開。その場から瞬時に弧を描くように飛んだ仮初の刃物は瞬時に魔獣の首を切断する。
(うそ・・あり・・えない・・かな・・)
切断したはずの首が瞬時に接合される。明らかに液体金属が首を両断したのを目視した。魔獣の驚異的な回復能力があるのもこの時初めて知る。そして体の特性も。
「・・く!」
(すぐに防御に・・って・・あれ・・)
気がつくとすでにメリッタの胸・・腹部に無数の牙が刺ささり、自分の体が宙に浮いているのに気づく・・そして全身に走る激痛。
「が・・あ・・かふ・・!」
「きゃああああ!!メリー!!!!!」
ボキ・・ポキ・・っと音をたてゆっくりあばら骨と、背骨が折られていく。食いあげられ体を持ち上げられてる状態では身動きがとれない。そして自分の肉がゆっくりと割かれていくのがわかった。
─・・ぶちぶち・・ぼた・・
・・っと不快な音とともにメリッタが自身の下半身の感覚が消えたのを覚えた。そしてそのまま地面に叩き落ちる。
「う・・あ・・けふ!」
視界に入るのは真っ二つになり内臓を垂らした自分自身の下半身だった。
ようやく戻ってきた液体金属。ようやくといっても、ものの数秒だ。
激痛に耐えつつ、液体金属に次の指示を与える。
「ミ・・スリル・・おねが・・」
メリッタが食い千切られるという凄惨な状況を目の前で見ていたエミル。腰を抜かし、涙を流しながら失禁をしてガタガタ震えていた。逃げて発光玉を撃てる状況ではない。
メリッタに指示を受けた液体金属は瞬時にエミルにまとわり、半透明な丸い膜を形成する。
メリッタが食べ物でないと判断した魔獣はすぐさまエミルに飛び掛かり牙を立てた。
「いやああああ!!!」
頭を抱えて絶叫するエミル。しかしその膜に牙は阻まれ届かない。
ガツガツと執拗に噛みつく魔獣だがその膜に牙が通らず、エミルを食えないとわかるとあきらめたかのようにゆっくりと夜の森に消えていった。
そしてその場に沈黙が訪れる。
音が聞こえなくなり、ゆっくりと目を開けるエミル。そして、さらに青ざめる。
目の前には血だらけになり真っ二つになって動かなくなったメリッタの姿があった。
「・・いや・・いやぁ・・いやあああああああああああああああああああああああああ!!!」
静かな夜にエミルの悲痛な悲鳴が響き渡る。
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