長い夜の幕開け

 二人のわだかまりが解け、しばらくの月日がった。

 メリッタとエミルはお互いに得手不得手を補いながら、お金を貯めることにした。

 日中の仕事、メリッタがつかう材料の採取、奉仕作業、狩りはエミルが行い、朝方、夕方はメリーが冒険者協会からの魔物狩りなどの任務を行い、日中は日の当たらない部屋で調薬をおこなっていた。そのおかげで大分遠征に行けるお金はたまってきた。遠方の土地にいっての調査はお金がかかる。旅のお金はどうしても必要だ。

 見知らぬ土地でも薬をうったり、雑用はできるが依頼による大きな収入は期待できない。なのでお金を今のうちに大量に溜めてそれで世界中を回り、エミルを元の世界に戻す方法、欲ではあるが自分自身を元の人間に戻す方法も探す予定ではあった。

 そして毎晩は寝床を共にし、メリッタへの食事である授乳をメリーは行っていた。

 今この夜もいつものように・・。

 「ん・・ん・・」

 毛布に包まりながら、エミルの母乳を頬を染めながら一生懸命吸い続けるメリッタ。

 「あ・・ちょっと・・牙・・当たって痛い」

 「ぷは・・あ・・ご・・ごめん・・エミル」

 怒られたと思い、急に乳房を放し身を縮こませるメリー。小さく震えていた。

 その小動物かのような反応をエミルが見せられると思わず抱きつきたい気持ちが抑えられなくなる。

 いてもたってもいられなくなったエミルは、メリッタの頭をぎゅっと握りしめて乳房に押し付けた。

 「く・・くるし・・エミル」

 「んもー吸血鬼が窒息ぐらいで死なないでしょ?夢中になる表情も、怯える姿もなんかかわいい!!ずっとだっこしていたい!」

 「そ・・そうかな・・」

 「このかわいいメリーを独り占めできるのが私の特権かな。・・そういえばさ・・もっと大きな仕事したくない?」

 「大きな仕事?」

 「こんど私と一緒に遺跡か洞窟攻略いこうよ!そうゆうのもこの世界にもいっぱいあるし、私の見たことない遺物やお宝とかいっぱいありそうだしね」

 「・・探索の任務は・・もっと大きな一党でないと難しい・・役割もきめないとだけど・・」

 「んーそうねぇ・・共同探索ってのも可能だけど・・」

 「あたし・・の特性上、無理・・かな・・ 吸血鬼だとばれると狩られる対象になってしまうし・・」

 「そうよね・・。どうしよ・・なにかいい対策・・そうだ・・吸血鬼らしからぬ格好になれば・・」

 「なに・・それ・・」

 「その血色の悪さも問題!鋭い牙もチラチラ見えるし・・そうね・・肌は白粉を塗って・・口は覆う布で隠すとか・・盗賊とか・・やっているでしょ?」

 「顔に白粉をぬるのはいいけど・・顔を隠すのは・・いやかな・・」

 「そうねぇ・・んー そういえばギルドで猫のお面をかぶってた黒い長い髪の女性の剣士にあったんだ!ああゆう仮面とか・・いいんじゃないな!メリーは・・体がとても小さいから・・あえてリスとか!」

 「・・リス・・微妙・・」

 「いやかわいいよ!絶対!被り物もあるみたいだし・・サーカスの道具屋さん今度いってみましょう?」

 「逆にあたしで遊ぼうとして・・ないかな・・」

 それを聞いたエミルはびくっとする。

 「し!してないよ!メリーと一緒に探索に行く目的!別に着ぐるみを着せるつもりはないからね!?」

 「・・・本音もれているかな・・・」


***


 ─つぎの日の早朝


 メリーとエミルは早速ギルドに顔を出すことにした。

 その大きな仕事を探すためだ。メリー的にはなるべく危険が少なく、エミルがやりたいという冒険者らしい仕事、探索や、開拓の仕事を取るためだ。

 その仕事はたしかに大きな仕事であり、毎日といってほかの一党と取り合いになる。なのでギルドが開く時間ギリギリに向かった。

 ・・しかし、メリッタは異変に気付くことになる。朝早朝なのにたくさんの冒険者が集まっていたからだ。

 メリッタが注意深く周囲をみる。

 (・・冒険者だけじゃないかな・・傭兵もいる・・そして・・)

 黒札もちだ・・。

 (・・いやな予感がする・・今日は来なかったほうがよかったかな・・)

 メリッタが生つばを飲んでいる中不安そうにしているエミル。エミルも状況の異常さに気づいたようだった。

 「メ・・メリー・・今日は・・帰ろうか・・」

 「かな・・」

 数歩後ずさりすてすっと二人で後ろをみた瞬間、仁王立ちをしている国の騎士達。

 「どうした・・?特務を受けに来たのじゃないのか?・・というか、お前、黒札持ちじゃないか・・ではれば参加は義務だ。この場にきて帰るのは許さん」

 「あ・・」

 顔を真っ青にしてエミルは息を飲む。

 (・・最悪の場にいあわせちゃった・・かな・・こうなっては・・話を聞くしかない・・かな・・)

 メリッタはエミルをそっと見上げる。顔を真っ青にして小さく震えていた。メリーはぎゅっとエミルを手を掴む。

 「!?」

 「大丈夫、エミルはあたしが必ず守るから・・あぶないこともぜったいにさせない・・」

 「メリー・・」

 「とりあえず・・聞こうかな・・任務を・・」

 

 ***


 任務の内容は確かに最低最悪の内容だったのかもしれない。

 この国の夜を何年も支配してきた最強に近い魔物。夜の魔獣の討伐・・。

 エミルがこの世界に初めて来て、初めて襲われ、初めて命を奪われそうになった相手だ。その話を聞いてエミルは両手で両腕をを掴み座り込んでガタガタと震えている。当たり前だった。彼女の体に大穴をあけ、死ぬ直前まで追いやった相手だからだ。

 メリーも普段かかない汗をかきながら必死に状況と任務内容を説明するギルド長と騎士団長らしき男の話を聞いていた。

 そして威勢のいい冒険者、そして傭兵たちの声が上がる。

 その熱い熱気の渦のなか静まり返っていたのはメリーらだけだ。


 そして準備のため、数日の間だが一時解散となった。

 その帰り道・・二人はまた声を出さずゆっくりと夕日の道を歩いていた。


 「メリ・・」

 「大丈夫・・あたしが・・なんとかする・・」

 エミルが声をかけようとした瞬間にメリーがわって大きく声をあげる。

 びくっとするエミル。そのまましゅんとして顔をさげた。

 「またメリーに迷惑・・かけちゃうね・・」

 「気にしなくていいかな・・ それがあたしの今いる意味だから・・」

 そういった瞬間、エミルはメリッタに抱きつく。

 「・・え・・エミル・・?」

 「大丈夫、今度は迷惑をかけないよ。実際にあいつと対峙をして生き残ったのはどうやら私だけみたいだから・・」

 「・・もしかして・・」

 「私はただやられるだけの馬鹿じゃないよ!相手の特徴はいくつかだけど覚えているわ・・。あんまり思い出したくないけどね・・」

 「・・うん、たしかに話では討伐に挑戦してだれも生きて帰ってきてないって話・・であれば・・すこしでも特徴がわかれば・・優位に立てる・・かな」

 「そういうこと!あとあの時死ななかったこの私の強運に期待して!!?」

 「・・・不安しか・・ないかな・・」

 どんな状況でも前向きなエミルにメリッタは少し勇気をもらった気がした。

 たしかに状況はどうあがいても変わらない。この黒札を持った限りはやらなければらないのだ。それがメリッタの決めた生き方の一つだからだ。

 「じゃあ・・早く帰って・・作戦会議・・かな」

 「そうね!万が一にそなえて霊薬も備えておかないと!あと、しっかり食べるのと寝るのが大事!最大の能力を発揮するには十分に休むことだからね!?」

「おっぱいだすの・・つかれない・・?」

「んー?」

 顔を赤くそめながらつぶやくメリッタをエミルは笑顔で頭を叩くのだった。

 

 ***


 ・・そして作戦当日の夜となる。

 メリッタとエミルは騎士団長に指定されたとある深い森に向かった。

 少し開けた場所。そこにたくさんの冒険者と傭兵が集まりがやがやと声を上げて武器の手入れをしたり話し合ったりしている。

 「・・すこし離れた場所に待機かな・・」

 「え?」

 「あたしが吸血鬼とばれるとやばい・・」

 メリッタは深めにローブを羽織ると人込みからはなれ、小高い丘を見る。

 「・・・!」

 メリッタは、目を大きく見開いてそのにたつ女性に気づいた。

 白髪の髪の毛・・透き通った灰色の瞳・・そしてあの魂が焼き付いているかのような覚悟を決めた表情・・。

 「・・グレイ・・」


***


 そう、メリッタが初めてこの国来た時に、刃を向けたあ相手。冒険者グレイ。

 この国の元魔法兵隊の隊長であり、国で数えるほどいない同じ黒札の冒険者だ。

 彼女の左右に二人の女性がいる。二人ともあの場で見た女性達だった。しかしなぜ最小人数なのか。なにか理由があるのだろうかとメリッタはおもった。

 ・・そして彼女は大声で挨拶を始めた。

 「えーと、初めましての方もいるかな?私はグレイ。今回の討伐戦の指揮を任されたものです」

 『おめーをしらねーやつなんていねーぞ!!』

 っと・・ヤジが飛び交っている。

 まぁそのはずだ。軍属上がりの冒険者はそうそういない。しかも彼女の白髪のアルビノという特徴的な外観をギルドで見逃す人はいないからだ。

 「・・ん・・えーと、今回はこの国を何十年も脅かし、我々の夜間の活動を停止させていた夜の魔獣。・・この魔獣の討伐になります・・。何年も放置されていたのには理由があり、なぜなら今まで誰も勝てなかったからです。しかも姿をしっかりと残した文献も存在しません。なぜなら、この魔獣に挑んだ冒険者で誰一人生き残りがいなかったからです」

 「しかし、この存在をもう見過ごすことができなりました。依頼を受けた時点でご存じだとは思いますが、この魔獣は初めて人里を襲ったのです。いままで夜の森を常に徘徊、人里には一切おりてきてませんでした。しかし、先日、一つの村が襲われ、ほぼ村人は全滅状態に・・男は体を八つ裂きにされ、女・子供ははらわたを食い荒らされていたそうです」

 「一度人の味を覚えた魔物は次ぎ次と人を食い荒らすでしょう。その前になんとしても食い止めなければなりません」

 「たしかに昔、冒険者たちはかてなかった。それは一つの一党だったからだと思います。しかし今回は一党ではなくほぼ小隊並にみなさんがあつまってくれました。夜の魔獣の特徴・戦闘力はわかりませんが、みんな一丸となって戦えば勝てない相手ではないと思います」

 「これ以上国民・・いや大切な家族が奪われないようみんなで必ず夜の魔獣を打倒しましょう!!」

 今までにない程夜の森に歓声がわく。

 その姿にメリッタは息を飲んだ。ここまで力強く人を引っ張っていく相手に自分が勝てるはずがなかった。その最悪な相手が目の前にいてみんなの意思を動かしている。

 左右に立っていた二人の女性達がグレイに向かい合って笑顔で話をしている。そして盛り上がって話をしているとグレイは二人を抱きかかえ両手でぽんぽんと叩く。そしてあらためて後ろを向き皆にまた冒険者らに声を上げる。

 「私が指揮する限り犠牲者は絶対にださせません!絶対に危険と感じたらかならず距離をとってください!」

 「作戦はこうです。皆さん先ほど支給した発光玉をお持ちですね。まず分散して夜の魔獣をさがします。見つけ次第、絶対に一人で手を出さずに距離を置いて発光玉を打ち上げてください。その光が見えたらそれぞれの一党が目視次第その場所に全員が集まる事。全員が集まったらまず私らが先制攻撃をします。そして夜の魔獣の能力と戦力を皆さんの目で測ってください。それからみんなで最良の手を導きだして殲滅する形になります。ようはみんなの今までの経験と感が夜の魔獣の討伐につながると確信しています。無理はせず、しっかり見定め、確実に討伐しましょう!!」

 一斉に冒険者たちの歓声が上がる。士気は十分に感じられた。

 メリッタは生唾を飲む。勇ましい彼女の姿に心が焦がれた感じがしたからだ。

 そしてグレイは話を続ける。

 「魔獣探索は仮初の一党での行動になります。かならず女性だけの一党は作らないでください。なぜなら女性を襲う傾向があるからです。そのときは男性の方は守りに集中しながら逃げてみんなが集まるのをまってください!!」すると冒険者の一人が声を上げる。

 「グレイ!お前の一党、女だけじゃねーか!」

 「・・えっと、私は一応、元軍属だからね?あなたよりはやわではないかな?」

 「ハハ!!ちげぇねぇわ!グレイ隊長さんよぉ!?」

 盛り上がりの中、グレイは小高い丘を飛び降りると、他の冒険者やら傭兵の様子を見て回っているようだった。そしてグレイが一声をあげると冒険者・傭兵らがおのおの仮初の一党を組み始める。

 グレイも歩きながらみんなの装備や構成などをチェックして回っているようだった。

 (まず・・グレイが・・こっちにくる・・)

 深くローブをかぶって顔を見せないようにした・・しかしすぐ直前で彼女は止まるのを音と呼吸で感じ取った。メリッタは冷や汗が止まらなかった。

 そして声を掛けられる。一瞬びくっと身を震わせるメリッタ。

 「・・メリッタ・・」

 「・・おひさしぶり・・かな・・グレイ・・」

 「貴方も、黒札もちだったのね・・」

 「うん・・先日は本当に申し訳なかった・・かな・・」

 「いいのよ。もう怒ってないし、この任務に参加したってことは貴方にしっかりした心変わりあったってことだから・・」

 「でも、貴方は・・二人で探索をしてもらうわ。別に意地悪をいっているわけじゃない」

 「わかってる・・かな。あたしは吸血鬼・・だから・・正体がばれると・・まずい・・」

 「そうゆうこと。ばれると貴方が狩られる対象になる。貴方たちのことを思っているだけ。それにその体ならその子をしっかり守れるでしょ?」

 グレイはエミルをみて笑顔を見せた。一瞬驚いたエミルだが、笑顔で返す。

 「うん・・」

 その会話に割って入るエミル。

 「こ、こんにちは!誰?この美人さん!!」

 「こ・・この子も特殊性癖持ち・・?」

 「・わからない・・かな・・とにかく、いろいろ助けてもらってる。エミルっていう子・・ほら、挨拶して」

 「初めまして!!グレイさん!!あ・・握手してもらっていいですか!?」

 「よ・・よろしく・・」

 グレイは苦笑いして握手をする。

 しかし、その笑顔には陰りがあるのにメリッタは気づいた。

 「なにかあった?グレイ・・」

 察しがいいメリッタは首をかしげてグレイの顔を覗き込む。

 「なんでもないわ。とにかくあなた達も気を付けてね。さっき言った通りの作戦で・・絶対に手をだしてはだめよ。それはその子を守ることにつながるんだから」

 「うん・・わかった・・かな」

 グレイはメリッタの頭を執拗に撫でてあげる。

 すこし頬を染めるメリッタだった。


 笑顔で手を振って、グレイはメリッタから離れて行った。振り向く瞬間の顔をメリッタは見のがしてない。完全に怒りの表情だ。

 

 ・・そして長い長い夜が始まる。

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