お互いの距離

エミルが初めて目にしたメリッタの残虐性。・・そして人殺しだった真実。

そしてその行為をする理由が自分自身が元の世界へ戻る手段をメリッタが模索してだした結果がもたらした凄惨な出来事。

エミルはメリッタにもう殺人はしないよう説得しようとしたが、横にしか首を振らない為、その日以来メリッタと話をしなくなった。

その態度にメリッタもなんとも言えず自分から話しかけるきっかけを作ることができなかった。

 ・・・そして数日がたち、朝が開ける。

 いつもくっ付いて寝ていた二人だったが、今は離れて顔を合わせずに寝ている。

 エミルはむくりと起き上がり、軽く伸びをすると、不安げな目で眠っているメリッタを見て装備を整え、黙って出ていく。

 メリッタは寝ておらず、その黙って出ていくエミルと顔を合わせられずうっすらと涙を流していた。

 本当に自分の判断は正しかったのか。少しでもエミルを帰すための情報を集めるたの行動だったはずだったのだ。

 しかし実際の結果はエミルを大きく傷つけてしまった。

 エミルの気配が消えたのを感じ取るとメリッタは起き上がり、涙目になった目をこすって道具袋を背負うと、日がまだ上がり切らない朝の森の中に駆けて行く。


 ***


 日の差さない森の中を散策しながら薬草や定期的に依頼を受けている素材集めをするメリッタ。

 終始暗い顔だ。

 (このまま・・エミルと和解できないなら・・ギルドに依頼して別の一党に入れてもらって・・その人たちに帰還の手助けをお願いしたほうが・・いいの・・かな・・あたしと・・いても・・苦しいだけだろうし・・)

 話が出来なければ何も進めることができない。常にすれちがっていては一党とても成立できない。

 メリッタは唇を噛みながら考える。エミルから一時別れ、単独で帰還させる方法を探したほうがいいのかもしれない。

 自分といるとエミルを気づつけるだけだと思ったのだ。

 そして深いため息をつく。

 そしてきらきらと光がもれる空を見上げるメリッタ。

 「・・うん・・そうしよ・・エミルと解散を切り出そう・・その方があたしも動きやすい・・かな・・エミルも・・苦しまなくてすむし・・」

 そうぼそっとつぶやくと、またもくもくと薬草を摘むメリッタ。

 地面にはポタポタと涙がこぼれていた。


 ***


 そして日が暮れ、メリッタは隠れ家に戻る。

 そっと中をのぞくと・・・誰も人の気配がしなかった。メリッタは無でをなでおろす。やはりエミルと合うのは不安だからだ。また口をきいてくれないともう気持ちがだめになると思ったし、また自分から一党の解散を言おうと決めていたのでそれを言わずに済んだからかもしれない。

 しかし、いづれエミルはこの家に戻ってくる。その時が最後の別れになる。

 心の奥底ではエミルには帰ってきてほしくない気持ちが強かった。

 ・・の時、扉がぎぃ・・っと音をたてて開く。

 一瞬体をびくりと震わせるメリッタ。扉のほうから漂ってくる森の香り。

 (・・エミル・・)

 メリッタは生唾を飲み込むと恐る恐るゆっくりと振り向く。

 ・・・。

 メリッタの瞳に映ったのは満面な笑顔のエミルだった。

 メリッタは唾を飲み込みながらエミルに一党を解散することを伝えようと声をあ用とした瞬間、エミルはそれを遮るように大声をあげた。

 「お疲れ!メリー!! そういえば覚えてたた?今日! 私達が初めて出会って命を助けてもらった一周年!私達の誕生日!!」

 「え・・」

 そうだった。森で初めてエミルと遭遇し、一緒に冒険を続けて一年になっていた。

 メリッタは不死なだけに時間の概念がほとんど感じなくなっている。何時間たとうが、何日たとうが、同じ時間に縛られていた感覚だったのだ。激しい気温差も感じにくくなっているため、季節の移り変わりも気付かないのだ。

 きょとんとしていたメリッタにエミルが笑顔で近づき頭をなでる。

 「だからね・・。実は準備してたんだー。お祝いの料理。こっそりとね。街の食堂の御ねぇさんに教わりながらね・・。基本私、生野菜しか食べないから料理知らないから」

 「え・・最近、エミルの様子が・・おかしかった・・嫌われたのかと・・」

 「・・えっとぉ。私隠し事が苦手だから、うっかりサプライズをしゃべっちゃいそうだったから・・。ごめんね?だんまりしてて」

 「・・そ・・そう・・なんだ・・」

 「え!?もしかしてメリー、気にしてた!?ごめん!!美味しいの準備したから・・それでおあいこってことで!」

 「おいしいの・・って・・、あたし食べ物は胃が受け付けないって・・いった・・かな・・」

 顔を伏せて目を反らすメリッタ。前にもエミルに説明したが、吸血鬼は血しか味がわからず、ほかの食物の味はわからないし、異物と判断して反射的に吐き戻してしまう。・・料理で祝うなんてもうほぼ永遠にないと思っていた。

 落ち込むメリッタを見たエミルは、姿勢をさげてメリッタの頬っぺたを両手で挟み、無理やり笑顔を作らせる。

 「大丈夫!わかっているって!だから、メリーが食べられそうなのを知り合いの食堂で働きながら研究したんだ!」

 「え・・吸血鬼・・ってば・・」

 「ばれてないよ!だって血なんてまったく使わなかったんだから!」

 それをきいたメリッタは驚きを隠せない。

 エミルは材料袋をテーブルに置くと身にまとっていた衣装の腕をまくり上げる。

 「さて、作りますか!!メリーまっててね!」


 ***


 簡易的に作られている厨房からは湯気が上がり、コトコトと沸騰する音がする。

 エミルは軽くエプロンを纏い、何やら色々と加工をしていた。

 「・・ナイフ・・つかってない・・かな・・ 材料加工しないで何を作ろうとしている・・のかな・・ ・・ え・・この匂い・・」

 無意識のうちに涎がたれているに気づいたメリッタ。思わず急いで袖で拭う。

 「・・食欲がそそられる・・一体なにを・・」

 真剣に調理器具やら竈の火とにらめっこしているエミル。最近は泣き顔しかみてなかった。実際任務のときも常に震えてていて怯えており、自信に満ちた顔を見たことがない。しかし、彼女は調理という行為に真剣に向き合っている。それほどメリッタに答えようと努力し、それを今体現している・・ということなのだろうか。

 その今まで見たことのないエミルの誠意のこもった顔にメリッタはずっと見とれていた。

 彼女は竈からすくっと立ち上がり伸びをすると、調理器具の蓋をあける。

 ふわっと湯気がたち、メリッタの方にその湯気が漂う。

 今までにない匂いにメリッタは一瞬くらっとなる。・・欲しているのだ。まるで生き血のごとくに。

 エミルは調理器具からできた食べ物をとりだし、丁寧に盛り付けしていった。

 ふと・・エミルは後ろをみる。

 そこには目をランランとさせて両ひざをついて涎をたらしているメリッタの姿。

 「なんか・・飛びついてきそうな雰囲気だけど・・お預けだからね! 今テーブルに並べるからまってて!・・あ、私の人参も切らないと・・」

 「うん・・」

 そして、日は暮れていき、夜になる。隠れ家にはオイルランプの明かりがうっすらと漏れていた。


 ***


 「・・おぉ・・」

 なんとも言えない声を出すメリッタ。

 テーブルに並んだものは真っ白な蒸し物。容器にはいったゼリーみたいな物。、そして真っ白なパンみたいなものだ。

 エミルは野菜をいっぱいに上げた皿をもって自分の前に置いて席に着く。

 「さて、メリーとであって一周年!おめでとう!そしてありがとう!! カンパーイってお酒はないんだけどね」

 メリーはキョロキョロして料理を眺める。吸血鬼の本能をくすぐる血の匂い・・でも違うもの・・。

 「エミル・・これって・・」

 「ふふ、メリーがおっぱい好きなのをわかってたから別に私のおっぱいじゃなくてもいいかなとおもって。そんなにたくさん出ないしね。これすべてヤギの乳でつくった加工品よ?同じ成分だから大丈夫だとおもったの。えっとね、これはお乳の蒸し焼き。加熱すると固まる成分がある味のない食材をませたの。あと味がなくてパンの粉に使えないで有名なヤーマ麦にお乳を練りこんだパン。これは純粋なお乳ゼリーよ・・これは私の・・おっぱい・・つかっているかな・・・はずかしいけど」

 と説明している間にメリッタはパンを取りかぶりつく。そして蒸し物をとって口に押し込む。

 「・・って、そんなに慌てて食べなくていいのに・・でも・・どうやら大成功みたいね!」

 「う・・うん はむ・・ おいしい・・ ひさびさに・・ 食べ物を食べた・・ おいしい・・ おい・・ ん! けふ! かふ!!」

 「ちょ!?メリー!!喉につまった!? はいこれ飲んで? 私の母乳しぼっただけのだから大丈夫!」

 涙をながしながら咽ているメリッタにコップをエミルは渡す。

 奪いとるようにメリッタはコップをとり、流し込んだ。

 「うぷ・・ ふ・・ はぁ・・」

 その顔を見ていたエミルは驚いた顔を見せている。

 それに気づいたメリッタは不思議そうにエミルに声をかけた。

 「・・どうか・・した?」

 「メリー・・ はじめて・・笑った・・」

 「笑った?あたしが・・」

 テーブルに上がり飛び込むように抱きつくエミル。そのままメリッタは椅子ごと倒れ、床に二人で倒れこむ。

 「あ・・いた・・・い・・エミル・・」

 エミルは涙を流しながらメリッタに頬ずりをしまくっていた。

 「メリー!!笑った!!笑った!!初めて見た!!あは!かわいいーー!」

 「そうかな・・」

 ぐりぐりと頬をを寄せられてすりすりするエミルを眺めるメリッタだが、ふと頭のなかによぎる。

 「・・・解党は・・やめよう・・エミルの笑顔・・絶やしたくないかな・・多分・・あたしの行為は気にしていない・・あたしをもっとよくしてあげようと思っている・・かな」

 メリッタを思ったお手製の料理。そして、笑顔で抱きつく姿をみてメリッタは別れを考えた自分に対し、猛省をした。

 やるべきことは分かれることではなかったのだ。親しい人が一人しかいないこの世界。メリッタが彼女の笑顔を絶やさないようにすることだ。

 「・・エミル・・離れて・・」

 「いや!かわいいメリーの顔いっぱい堪能したい!!」

 「・・はは・・」

 

 そのまま夜過ぎていく・・二人はまた一緒に毛布に包まり、抱き合うようにまた一夜を過ごすようになった。

 

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