第6話 予期される未来
テッド・チャンのSF短編集、「息吹」に収録されている、「予言機」というものから人間の「自由意思」について考えさせられる一遍。
今から少し先の未来、「予言機」と言われる機械が生まれる。この機械はその名前のように大層なものではない。ボタンを押したら緑色のランプが点灯するだけだ。
正確にはボタンを押す一秒前に。
未来の情報を過去に送る回路が備わっている。この機械をどうやっても騙すことはできない。
「自由意思」とは他からの制約を受けずに、自分から発せられた、何かを成したいという気持ちだ。
日常生活では自分は自由に選択していると実感する場面が非常に多いと思う。その実感というものはとても大きく、それ以上に深く考える、ましてやそれを否定する人など少ないだろう。
しかし、深く考えて、証明してみようとみると、複雑な問題だということが分かる。
それでもなお、実感というものは大きい。
未来の情報を過去に送るということ自体は非常にワクワクする話だ。
物語の中でも、予言機を手にした人間は最初なんとか騙そうと楽しんでいる。
しかし、騙すことはできない。
これの意味が分かるだろうか。
その未来にたどり着くまでに私たちは、騙そうと、意思を持っている。と思っていた。
なのに変わっていない。
「人間に自由意思はない」
こう気がついてしまった人間は、全ての気力を失ってしまう。
何をしても、未来は変わらないのだから。
この物語は、たった四ページで「自由意思」という複雑な問題を取り上げ、ある一つの答えまで提示している。
ここで語られていることはフィクションではない。「自由意思」は現在もホットな話題であるし、「予言機」もいつか実現するかもしれない。誰もそれを否定できない。
ではその時、私たちはどうすればいいのだろう。
私は生まれてからの十五年間、色々なことを選択してきたと思っている。
唐揚げが食べたい、この映画を観たい、もう少し寝ていたい、ドッジボールがしたい、この高校に行きたい、あの人の近くにいたい。
それら全ては、私の意志ではなかったと分かったら、「予期される未来」だと分かったら、どうなってしまうのだろう。分かったからといって何が変わるわけでもない。今まで通り決められたレールに乗って生きていけばいい。
それができるかどうかすらも決められているわけだが。
唐揚げは美味しい、あの映画は駄作すぎて友だちと愚痴大会、遅刻しすぎてあだ名がついた、逃げた結果スパッツを二本もダメにした、変な人がいっぱい、たくさん笑って苦しかった。
そうやって、私は選択の責任を負う。
「自由意思」はあると、思いたい。思わなければならないから。
別館サブカル 家猫のノラ @ienekononora0116
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