第31話 もー、行くしかなーい ~フォルトナサイド~

アグリとゾルダが旅立ってから数日がたったんだけど……

なんかモヤモヤするー。

ん?

モヤモヤじゃないかー。

ソワソワかなー。


母さんは相変わらず人使いが荒いし。

今日も人手が足りないからって風車の修理手伝ってこいって。


その前も、カルムが別の用事でいないからってさ。

国王に勇者たちの報告に行って来いって、セントハムまで行かされるし。


もう!

ボクだって!

魔物退治を手伝ったんだから、少しはゆっくりさせてよ!


「おーい、お嬢」

「こっちの風車の修理は終わったぞ」


風車の上からオンケルがボクに向かって大声で叫ぶ。


「はいはーい」

「ありがとう」

「これで、全部修理は終わったかなー」


でも、なんだかんだで言われている通りやっているボクはえらいね。

自分で自分を褒めちゃおう。


「そうなりやすねー、お嬢」


「オンケルさん、もうお嬢はやめてよー」

「ボクはフォルトナっていう名前あるんだから」


「あっしにとっては、いつまででもお嬢ですから」

「長の娘でもあるわけですから」


この村にいるとこういう風に扱われるのが嫌なんだよなー。

もっともっと自由にいろんなことしたいのに。

祠を見て回っている時が楽しいや。


それに……

やっぱりゾルダとアグリと一緒に魔物退治しにいったのが、なんだかんだで楽しかったなー。

ちょっとした冒険っていう感じで。

またあの二人と一緒に冒険したいなー。


「まぁ、とりあえず終わったなら、母さんに報告しておくね」

「オンケルさん、ありがとう」


「お嬢もお手伝いいただきありがとうございやす」

「人手も足りなくて苦労していたので、助かりやした」


「いいよー、そんなことー」

「お礼は母さんに言っておいて」

「手伝ってこいって言ったのは、母さんなんだから」


そう話すと風車の下を離れて、家へ向かっていった。

向かっている途中に、さっと後ろを動く影が見えた。

あれは……


「ねぇ、カルムさんでしょ?」

「母さんに何か言われた?」

「尾行、甘くない?」


尾行じゃないなー、あれは。

たぶん、わざと気づくように動いたかなー。


「さすがですね、フォルトナお嬢様」


カルムさんがボクのすぐ横に姿を現した。


「そんなことより、母さんにしっかりやっているか見てこいって言われたの?」

「もー、まったく心配性なんだからー」


「いいえ、アウラ様はそんなことはおっしゃっておりません」

「私が用を済ませて帰る途中に、たまたまフォルトナお嬢様を見かけただけです」


ホントかなー。

でも、カルムさんは嘘はあまりつかないしなー。

カルムさんの言うことを信じるかなー。


「そういえば、カルムさんって、母さんと一緒に冒険していたんだよねー」


「はい、アウラ様と一緒に冒険をしていました」


「その時の母さんってどんなだったの?」

「あまり母さんは冒険のこと、話してくれないんだよねー」


母さんは冒険者の時のことはあまり口にしない。

いい思い出がなかったのかなと勝手に想像している。


「アウラ様が話をしないのは……」

「忘れていることが多いからではないでしょうか?」


「それを言うかー」

「確かに母さんは忘れっぽいけどさー」


「いえ、冗談です」


カルムさんが冗談を言うのを初めて見た。

母さんの前では、そんな姿を見せたことがないし。


「冗談を真顔で言わないでよー、カルムさん」


「申し訳ございません」

「アウラ様が話をしないのは、たぶんですが……」

「フォルトナお嬢様を大事に思っているからではないでしょうか」


ボクを大事に?

結構人使い荒いのに?


「なんでボクを大事に思っていると話さないの?」


「それは……」

「アウラ様の中では冒険者時代は凄く特別だったのだとは思います」

「それと同時に、かなり危険なことも多かったのも事実です」

「フォルトナお嬢様に話をして、冒険者になりたいと言い出したら……」

「そこを危惧されているのではないでしょうか」


「そういうものかなー」

「でも、この間はアグリやゾルダについていけーって言っていたけどなー」


「それは、勇者様たちなら、必ずフォルトナお嬢様をお守りしていただけるという信頼があったのではと思います」


ボクの早とちりで危険な目にあったけど……

確かにあの強さがあれば、よほど強い相手でない限りは負けないかなー。


「私と冒険をしていた時のアウラ様はそれはそれは優雅で華麗で強かった……」

「キラキラと輝いていらっしゃいました」


カルムさんが、母さんのことをしゃべるとき、嬉しそうな顔になる。

たぶん、カルムさんは母さんのことが好きなのだろう。

そう思えるぐらいの雰囲気を出している。


でも、あの母さんが……?

そんなに凄かったの?


「嘘だー」

「今の母さんから想像できないよー」


「今でもアウラ様は優雅であられますが……」

「やはり長の仕事に徹しているため、そういった面は見せないようにしているのではないかと思います」


カルムさんの話を聞いて、母さんがうらやましいと思った。


「ねぇ、カルムさん」

「母さんはその時、生き生きとしていた?」


「そうですね……」

「冒険を楽しんでいらっしゃるようには見えました」


やっぱり母さんはずるいなー。

自分だけそんな楽しそうな経験をして。

ボクには危険だからやらせないってさー。


そんな話をしながら、歩いていた。

しばらくすると家に着いた。


「あら、フォルトナ」

「おかえり」


母さんが家の中から出てきた。


「カルムも一緒だったの」


「はっ、そこでたまたまフォルトナお嬢様と一緒になりました」


そこから母さんとカルムさんは話し始めた。

たぶん、カルムさんの用事というのは母さんからの依頼だろう。

話が終わったかなーというタイミングでボクが


「そういえば、カルムさんから聞いたよ」

「冒険者の時の事」

「母さんばかりズルいよ」


「聞いちゃったのねー」

「別にズルいことは無いのよっ」

「確かに、楽しいことも多かったけど……」

「それ以上に、危険なことも多かったから……」


「言い訳はいいって!」

「ボクも母さんのように……」

「母さんのように楽しみたいし強くなりたい!」


そしてキラキラしていた母さんのようになりたい。


「フォルトナ……」


「フォルトナお嬢様……」


「ボクも冒険に行きたい!」


もー、行くしかなーい。

母さんに何を言われようが、どうしようが、もう行く!


「仕方ないわね……」

「本来はカルムに頼もうと思っていたんだけど……」

「勇者様が向かわれたイハルの街に、あなたが行って」


「!」

「いいの? 母さん」


「いいも何も、行きたいんでしょ、冒険に」

「ちょうど、勇者様への伝言もあるし、それを届けてちょうだい」


どうやら、カルムさんがここ最近いなかったのも、イハルの街の様子がおかしいってことで動いていたみたい。

魔王軍の進行が激しかったのが嘘みたいに静かになっているらしく……

しかも、領主からの音信も途絶えているらしいとのことだった。


「いい、フォルトナ」

「カルムが集めた情報を勇者様に伝えて」

「そして……」

「勇者様が良ければですが、そのまま同行しなさい」


「えーっ!」

「そこまでしちゃっていいの?」


「勇者様とあのおつきの方であれば、あなたを守ってくれるでしょう」

「ただ絶対に無理はしないでね」


うん、無理はしない。

頑張ってくる。

そして、絶対に絶対に母さんのようになるんだ。


「じゃ、準備したら、すぐ向かうよ」


「よろしくね」


「そして……ありがとう、母さん……」


ちょっと照れくさくて、小声で感謝を言った。

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