第30話 砂漠のオアシス ~アグリサイド~

シルフィーネ村を旅立ってからどのくらいたっただろう。

岩がゴツゴツと飛び出ていた北東部の丘を越えて……

永遠と砂の海が広がるところを何日も歩いた。


「まだ着かないのか~」

「ずっと同じような景色でさー」

「進んでいる気がしない」


「仕方ないじゃろ」

「この砂漠は広大じゃ」

「でも、あともうちょっとじゃ、頑張れ」


ゾルダは剣の中でのうのうとしている。

シルフィーネ村を旅立ってから、一度も出てきてない。

ずっと一人で歩いている。


汗もだらだら出るし、水を飲んでも飲んでも足りない。

なんとか水を確保しつつ進んでいるけど……

それでも足りない。


「あのさー、ゾルダ」

「一歩も外に出てないのにさ」

「何が『あともうちょっとじゃ」だ」

「楽しすぎだろ」


「ワシは戦うときと飲むとき以外は出とうない」

「こんな暑いのに外に出る意味はないのぅ」


ゾルダの言うこともわかる。

大いにわかるが……


「なんで俺だけがこんな目にあうんだ」

「この暑さ、ゾルダも味わえよ」


「いやじゃ、いやじゃ」

「おぬしだけで十分じゃ」


はーっ……

そりゃそうだ……

まぁ、気を取り直して進むしかないか。


ゾルダが出てこないまま、またしばらく歩くと、ようやくイハルの街が見えてきた。

砂漠の中のオアシスといった感じの街のようだ。

たしか、シルフィーネ村を出るときに、アウラさんが、


『イハルに入るには魔王軍を倒さないと入れないかもしれません』

『魔王軍を倒して、イハルに入ったら、領主であるデシエルトを訪ねてくださいね』

『国王から、勇者様が行くことは伝わっていますので~」


とか話していたな。

でも、イハルの街を見ても、魔王軍の欠片もない。

確かに外壁は崩れていたりはするけど……


「なぁ、ゾルダ」

「なんかアウラさんの言っていた状況と違わないか」


「うむ」

「そろそろ戦えるものと思っていたが……」

「静かじゃのぅ」


城壁の扉の中へ入り、街を見渡しても、特に大きな変わりはない。

人々も壊れた家や道路を忙しそうに修復している。


「いったん魔王軍は撤退したんだろうか」


「そうじゃのぅ……」


「まずは領主のデシエルトさんのところへ行くか」


街の中心にある立派な屋敷へと向かう。

至る所が破壊されていて、魔王軍の進軍の凄まじさがわかる。


「どれだけ強い魔物が来たんだろうな」

「あちこちが壊れている」


「ワシから見たら取るに足らんものばかりじゃ」


「そりゃ、ゾルダから見ればね」


「本当にとるに足らんぞ」

「この間戦った……ほら……なんじゃったけ……」


「シエロか?」


「そうそう、そのシエロとやらじゃ」

「そいつに比べれば、格段に劣る奴らばかりじゃ」


「ゾルダはなんでわかるの?」


「まぁ、なんとなくじゃ」

「魔力の残留具合から感じとれる範囲でな」


「そういうもんなんだ」


「ただ……数はそうとういた感じがするがのぅ」

「なのに、今は魔王軍が居ないのじゃ」

「なんか胡散臭いのぅ」


ゾルダは何かを感じているみたいだが……

当てになるのかなぁ。


しばらく歩くと領主の屋敷へと到着した。

ここは街に比べると奇麗なままだ。

入口には門番たちが立ちふさがっていた。


「あのー、こちらにデシエルトさんはいますか?」

「国王からお話が言っていると聞いていますが……」


門番たちはこそこそ耳打ちをすると、訝しげな顔をする。


「し……少々お待ちください」


1人が屋敷の中へ入っていく。

しばらくすると、一人の男が出てきた。

きちんとした身なりで、執事の様な恰好をしている。


「自分はエーデと申します」

「デシエルト様に何か御用でしょうか」


「あっ、はい」

「国王の指令でこの街に来ました」

「ここに着いたらデシエルトさんを訪ねるようにと言われています」


エーデは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「デシエルト様は今は誰ともお会いできません」

「魔王軍の強襲を退けた後、深手をおっており、療養をしているところです」

「何人たりとも近づけることは出来ません」

「お引き取りください」


あれ?

国王からの話が届いていないのかな。


「あの、国王からの……」


「国王からだろうが誰だろうがです」

「とにかくお引き取りください」

「お前らも、近づけるなと言っただろう」


門番たちもエーデに言われて、俺を追い返そうとする。


「少しだけでも……」


門番と押し合いを続けるが、押し切られてしまった。

アウラさんから聞いた話となんかちょっと違う。

伝令が届くより早くついてしまったのだろうか。


「ゾルダ……どう思う?」


「ん?」

「どうも何も……」

「会えんのならしかたないじゃろ」

「ただ……」


「ただ……なに?」


「魔力は感知した」

「何かあるのは間違いないじゃろ」


そうか。

エーデは何かを隠しているのか。

だから近づけたくないんだ。


「となると、魔王軍が何か絡んでいるのかな」


「そう見た方がよさそうじゃな」


「であれば、まずはそこを探らないといけないかな」


「そうなんじゃが…」

「ワシは疲れたので、早く酒が飲みたいぞ」

「せっかく街に着いたんじゃ」

「酒じゃ酒」


あのさ、ゾルダ……

久々の街で浮かれているな。


「ゾルダ、お前さー」

「剣から一歩も出てないじゃん」

「それで何で疲れるんだ?」


「それはじゃのぅ……」

「あの……」

「そう……魔力感知し過ぎて疲れたのじゃ」


あっ、そう。

わかったわかった。


「了解」

「疲れたのであれば、一休みしながら、次どうするか考えよう」


「さすがおぬし」

「分かっておるのぅ」

「酒場に行って酒じゃー」


剣から出たゾルダは街に一目散に走っていった。

嬉しいのは分かるが……


アウラさんの話は違うし、ゾルダが感知した魔力の件もある。

何かが起こり始めているのかもしれない。

明日以降に街を歩いてみて情報収集してみるか。

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