第32話 再び領主の屋敷へ ~アグリサイド~

到着した次の日。

もう一度、会えるか確認するべく、俺たちは領主の屋敷へと向かった。

たぶん会えないのだろうとは思うけど、やっぱり様子が気になる。


「おぬしも意味のないことをするのぅ」


ゾルダは領主の屋敷へ行くのは気乗りしないようだ。


「まぁ、空振りに終わるだろうけど、少しでも何か掴めればと思って」


「この手の奴らはそう簡単に尻尾を出さんぞ」

「まだ辺りかまわずボコボコにしていく奴らの方が、相手は楽じゃ」


「えっ?」

「ゾルダのように?」


「お……おぬし、何を言う」

「ワシは、もっと狡猾じゃぞ」


「あれだけ力任せにやっていて?」


「あっ……あれは……」


ゾルダはちょっとふくれっ面になってきた。


「あれは、ワシの方が完全に力が上だったから、ボコボコにしただけで……」

「決して何も考えていない訳じゃないぞ」

「勘違いするな、おぬし」


いや、あまり考えていなかったような気もするが……

ゾルダと対等という相手を見たことがない以上、確認する手だてはない。


「あー、わかったわかった」

「ゾルダもよく考えて行動しているよ」


「おぬし信用してないな、その口ぶりは」

「今回、どうするかよーく見せてやるから見ておれ」


ゾルダがどういう風に今回のことにどう対応するか見てみたいと思ったので、ちょっと聞いてみた。


「じゃあ、ゾルダだったら、どう様子を探る?」


「そうじゃのぅ……」


何やら真剣に考えている様子。

もしかしていい案が出てくるかな……


「まず門番をブチ倒して、昨日出てきて男も倒して、乗り込む」


期待した俺がバカだった……

やっぱり正面からじゃん。


「そんなことして、もし領主が人質にとられていたらどうするんだ?」


「一人二人死んでもかまわんじゃろぅ」

「ようは敵を倒せれば問題ない」


相変わらず強引だ。

というか、ゾルダは元々魔王だし、人を助ける義理はないのか。


「今回は、イハルから魔王軍を撃退してほしいというのが国王からの依頼」

「ただその中には俺はイハルの人々も守ってほしいというのも含まれていると思っている」

「領主もイハルの街の人だし、助けるうちには入っているよ」


「そういうものかのぅ」

「人族は面倒じゃ」


ゾルダに人の論理を分かってほしい訳じゃないが……

今は人の側にたっている以上、その論理の中でやってもらわないとな。


「悪いけど、俺につきあうなら、俺の言うことも聞いてくれ」

「じゃなかったら、俺はこの剣を捨てる」


「わっ……わかったから……」

「捨てるのだけは止めてくれ」

「ワシの封印が解けなくなってしまうではないか」


「なら、今回は強引に進めないでね、ゾルダ」


「……わかった」


そうこうしているうちに、領主の屋敷に到着する。

相変わらず門番が立って、こちらの様子を伺っている。


「あのー、昨日に引き続きで申し訳ございません」

「デシエルトさんにお会いすることは出来ないでしょうか?」


門番はこちらを睨みつける。


「昨日の方ですね」

「エーデ様より、訪ねて来られても中に入れないようにとのお達しが出ています」

「申し訳ございませんが、おかえりください」


やっぱり、そうなるか……

でも何故俺の事を遠ざけるようにするんだろうか。

怪しさを凄く感じる。


「ですよねー」

「ところで、デシエルトさんは、いつお怪我をされたのですか?」


門番が話してくれそうか、ちょっと聞いてみた。


「たしか……4~5日前だったかとは思います」

「激しかった魔王軍の進行が急に収まったのですが……」

「デシエルト様が深手を負われたとのことで……」


結構素直に話してくれるな。

これならもう少し聞き出せるかな。

いくつか質問をしてみたが、門番がわかる範囲では話が出てきた。

そこまで箝口令が出ているわけではなさそうだ。


分かったこととしては……

1つ目は魔王軍の進行が急に収まったこと

2つ目は領主のデシエルトさんが怪我をしたのはその時らしいとのこと

3つ目はそこからは全く姿を現さなくなったこと

4つ目はその後はエーデさんが取り仕切っているとのこと

って感じかな。


なんとなく何かが起きてそうな感じはするが……

これだけでは確証が得られない。


今度は街の方に行ってみて、話を聞いてみようかな。

門番にはお礼を言って、屋敷を後にした。


その後街の中を歩いてデシエルトさんについていろいろと話を聞いてみた。

なんかこんなことをしていると名探偵になった気分だ。


街の人と話をしてみて分かったのは……

デシエルトさんは凄く街の人々を気にしていたってこと。

どんなに体調が悪くても、必ず毎日街の様子を見に出ていたらしい。

そんな人が、ここ数日全く姿を現していない。

街の人々もそれを心配して、屋敷に行っているようだが、同じように会うのを拒まれているようだ。


これで大体の状況は分かったかな。

やっぱり屋敷内で何か起こっているのだろう。


「ゾルダは門番と街の人の話を聞いてどう思った?」


「ん?」

「どうもこうもなく、そのままではないのか」

「怪我をしたから出てこなくなったのじゃないのか」


本当に考えているのかな、ゾルダは……


「デシエルトさんが、怪我したことと、魔王軍の進行が止まったことは何か関係があるとは思わない?」


「魔王軍の奴らも深手を負ったからのぅ……」


「それじゃ、ゾルダが感知した魔力は?」


「おぅ、そうじゃったそうじゃった」

「確かにあの屋敷に何かしら居そうな気配があったのをコロッと忘れておった」


本当にコロッとか?

全然覚えていなかったんじゃないか?


「えーっと、その辺りを考えるとじゃな」

「デシエルトってやつが屋敷で人質にとられているってことかのぅ……」


「たぶんそうだと思うよ」


俺がそう答えるや否や……


「ほれ、ワシもしっかりと考えれるじゃろ」

「はっはっはっはっは」


ほとんど俺が導いているじゃん。

ゾルダはあまり考えてないでしょ。

よく自分が考えたように言えるな。

ちょっと呆れる。


「そうだね」

「魔王軍の進行が収まったのは、領主のデシエルトさんを押さえることが出来たから」

「ここが押さえられれば、この街を掌握出来たのと同じと考えたんだね」


「そっ…そうじゃ……」

「それもワシが言おうと思っていたのに」

「おぬしが言うな」


ゾルダが俺の意見に乗っかり始めた。

まぁ、そのままにしておこう。


「となると……」

「まずはどうにかしてデシエルトさんを助け出すかだね」

「屋敷内の様子は分からないし、どうしたものかな……」


「だから、こうガツンと……」


「いや、真正面は無理だから」

「他の方法を考えよう」


まずはどうにか屋敷の様子が分かるといいんだけどなぁ……

じゃないと、どこにどうやって匿われているかが分からないし。

その辺りがパパッと出来そうな人、どこかにいないかな……

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