第13話 大きな木 ~アグリサイド~
それにしても強い相手だった。
頭と体が離れるなんてどうなっているんだ。
苦戦はしたけど、なんとかアウルベアを倒すことが出来た。
「なんとかだったのはおぬしの方だけじゃ」
「ん……」
「そう思っただけじゃん」
「って、心を読むなよ」
「相変わらず不格好な剣技じゃのぅ」
「なんとかならんのか」
「そう言われても、今までやったことないことだから」
「なんとかなっているならそれでいいだろ」
「こう、もっと、そうじゃのぅ……」
「かっこよく勝てんもんかのぅ」
「……」
「出来ればやっているよ」
「いいだろ、結果出てるんだから」
「紙一重じゃ」
「今のうちになんとかしないと、後で苦しむぞ」
「結果だけじゃないぞ」
「過程も大事じゃ」
魔王のくせに正論をいいやがって。
わからんでもないが、まともに言われると正直傷つく。
「……善処するよ」
「ワシが手ほどきしてもいいからな」
「考えておく……」
さて、気持ちを切り替えてと。
ここ一帯はこれで落ち着くのかな。
あとは何か手がかりがないかの調査をしないと。
魔物が湧き出る洞窟か……
だいたいこういう類いは、封印が解けたとか、いたずらで社の宝珠を持って帰ったとか、そういうものでしょ。
でも、そんなことはアウラさん、言ってなかったな……
「ゾルダ~」
「お前も一緒に探してくれよ」
ゾルダは疲れたのか、アウルベアとの戦いの後は、剣の中に入って出てこない。
「ワシは嫌じゃ」
「疲れたので休憩じゃ」
「索敵だけはしておてやる」
きまぐれというかわがままというか。
魔王はそういうものなのか。
「ここら辺りをくまなく探すというのは結構大変だぞ」
「なんか魔力を感じたり、魔物が集まっていたり、するところはないの?」
「うーん」
「そういう意味じゃと、やっぱり大きな木のあたりかのぅ」
「どういうこと?」
「あれほど大きい木というのは、だいたい何かしらの力を持っているものじゃ」
「魔力なのか、霊力なのか、それはさまざまじゃがな」
「そうでないと、あれほどの大きさにならんからのぅ」
「大きい割には力が無いというか、力を感じないというか……」
「そんな感じじゃったな」
しばらく腕を組み、空を見上げた。
あっ……
あの木か……
「なら、早く言ってよ」
「いろいろ探し回っちゃったじゃん」
「おぬしが探しているものなぞ、わからん」
「興味がない」
「ワシはこの剣から出られればいいんじゃからのぅ」
ゾルダは憎まれ口は言うが、なんだかんだで肝心なところではヒントはだしてくれている。
わかっていて言っているのかどうかは……
とりあえずやみくもに探すよりかはいい。
急いで、大きな木のもとへ向かった。
道中にはグリズリーがいたが、そう多くもなかったこともあり、俺だけでなんとかなった。
強くなってきたこともあるのだろうし、戦い慣れてきたこともあるのだろう。
最初に比べると、簡単に倒せるようになった。
しばらく歩くと大きな木にたどり着いた。
根元や周りを調べてみると、人が1人は通れるぐらいの穴が木の根元にあった。
身をかがめて中を進んでいく。
少し奥まで入ると、立ってあるけるぐらいの空間になった。
壁を見ても、どうも自然に出来た感じはない。
誰かが手を入れたようになっている。
さらに奥へ進むと、大きな空間が広がっていた。
そこには小さな社が佇んでいる。
「この社はなんだろう」
近づいて覗き込む。
中には台座が置かれている。
その上に何かしらあった形跡はあるものの、落ちていたり、破壊されていたりはしなかった。
普通に考えると、ここに何かが置かれていたのだろう。
それが無くなったことが、今回の魔物たちが出てきた原因なのかもしれない。
「ゾルダは何かわかる?」
「ワシは探偵ではないぞ」
「探偵ではないのは知っている」
「ワシは預言者じゃないぞ」
「それも知っている」
「そうじゃなくて、気配とかなんかは感じないの?」
「そうじゃのぉ……」
ゾルダが剣から出てきて社の周りや中を確認し始める。
魔力かなにかを感じるのだろうか。
「うーん……」
「まったくもってわからん」
「わからんのかい」
「大きな木の中に社を作っているということは、何かを祭っていたのは確かじゃと思う」
「これほど大きい木じゃから、何かしらの力を持っていたはずじゃし」
「それを取り出したのか何かしたのかはわからんが、その中心にあったものをここに飾っておったのじゃろう」
「それ以外はまったくわからん」
「そっか……」
「アウラさんからも話は出てなかったしな」
他にも何かないか、くまなく周辺を探してみた。
ただ何も見つからなかった。
いろいろ探しても見つからないのであれば、もう何もないのだろう。
「一度このことをアウラさんへと報告するために、シルフィーネ村に戻ろう」
「まだいくつかの場所では魔物が出ているみたいだし、そっちの退治もゾルダはしたいだろうし」
「とにかく小難しいことは考えとうない」
「その社の事はおぬしに任せる」
「ワシは戦う方が得意じゃ」
「わかったわかった」
「ゾルダの方が強いし、何かあったら任せるよ」
社がある穴から抜け出すと、シルフィーネ村に向かって歩を進めていった。
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