第14話 風の水晶と祠と結界 ~アウラサイド~

勇者様は今頃は北西部を探索していらっしゃるでしょうか。

もう魔物の殲滅は終わっていたりして。

ウォーウルフキングの討伐もさっと終わらせていますからね。

きっとあっという間に終わって帰ってこられるのでしょう。

楽しみだわ〜。


シルフィーネ村の民からのお願いや依頼ごとを確認しつつ、勇者様のことを思い出す。

何故か彼の事ばかり考えてしまいます。

もう少し仕事に集中しないと。


午後からはなんでしたっけ……

そうそう、集会所の床が抜け落ちそうなのを見に来てほしいと頼まれていたわ。

確認をしてさっさと修理をお願いしましょう。


まずはこの書類の山をなんとかしないと。

集中してさささっさーとこなしていきます。

私にかかればこれぐらいすぐに終わります。

ただ何故か山にならないとやる気がでないのよね。

だから周りからはあのことはどうなった、これはどうなったといろいろと言われてしまいます。


……

…………

……………………

…………

……


さてと、書類も片付いたことですし、集会所に行きましょうかね。

村の中心部を歩いていると、市場の人たちが声をかけてくれます。


「長、いい肉が手に入ったから持っていきな」


「ありがとうございます」


「アウラさん、うちの子見かけませんでしたか?」

「遊びに行ったきり帰ってこなくて」


「えーっと、たしか……」

「イリアスくん……でしたっけ?」


「ちがうよ」

「イリアスは、向かいのモスカんちの子だよ」

「うちの子は、プラールだよ」


「あー……そうでしたねー」

「プラールくんなら、そこの広場で見かけたかなー」


「アウラさん、ありがとう」

「あいつ、何を遊んでいるんだ」


村の人たちはいろいろと話しかけてくれるので嬉しいですねー。

たまにいろいろと忘れたり、ドジしたりしていますが、暖かく見守ってくれます。


村の人たちといろいろと話しながら、集会所に到着しました。

さて、集会所の床はどうなっているのでしょうねー。


「長、わざわざ来ていただいて申し訳ございません」


「いえいえー」

「それが仕事ですから」


「ここなのですが、こんな感じでだいぶ腐ってきているようです」

「なんとかなりませんかね」


「確かに」

「これは酷い傷みですねー」

「みなさんが落ちないうちに、修理をお願いしてくださいねー」


「わかりやした」


さて、これで確認も終わったし、家へ戻ろうかしら。

帰りも村の人たちといろいろと話をしながら、帰りました。

ここでの話も長にとっては大事な仕事ですからねー。


家へ着くと、玄関には勇者様御一行がいらっしゃるではないですか!

私としたことが……

勇者様を待たせてしまいました。


「勇者様、大変お待たせして申し訳ございません」

「だいぶ待たれましたか?」


「アウラさん」

「そんなに待っていないですよ」

「ついさっき来たばかりです」


よかった。

それほど待たされていないようでした。


「うそをつくな」

「それなりに待っていただろう」


横にいるおつきの女性が勇者様に勢いよくお話されています。


「しぃーっ」

「そういうのは言わないの」


だいぶお待たせしてしまったようです。


「本当にお待たせしてしまったようで」

「まずは中に入っていただければ」


「いえいえ」

「お気になさらずに」


寛容なお方で良かった。

ひとまず応接間にお通しして、紅茶をお出ししました。

勇者様が人のみしたところで、来訪の理由を聞きました。


「ところで、急にお訪ねになったということは何かありましたでしょうか?」


「北西部の探索に向かい、調査と魔物退治をしてきたので、そのご報告と思って」


「えっ!」

「もう終わられたんですか」


「終わったというかなんというか……」

「まずは魔物の方です」


おつきの女性が大きなフクロウの亡骸を出してきました。


「こいつじゃ」

「あそこら辺りをうろついていたのは」


毎回ビックリします。

この女性は、よく平気でこういったものを持ってこられますねー。

顔をそむけながら、勇者様に話を聞きます。


「こっ……これは、なんの魔物でしょうか……」


「アウルベアと言うらしいです」

「グリズリーとアウルベアが北西部辺りにいっぱいいました」

「親玉はアウルベアでしたので、こいつを倒したことで、グリズリーは少なくなったかと」


勇者様の話に、おつきの女性が割って入ります。


「倒したのはワシじゃ」

「……じゃなかった」

「ワシとこいつで倒したんじゃ」


このおつきの方も強いのでしょうか……


「あっ……ありがとう……ございます」

「これで北西部も安全になりましたね」


「そうだといいのですが……」


「そうだといいということは……

「他に何かありましたか?」


「はい」

「知っていたら教えてほしいのですが」

「大きな木があったと思いますが、その中に社がありました」


「……はい」


「その社の中に台座がありました」

「形跡を見ると、その上に置かれていたのかなと思いました」

「社の存在とか台座の上に何か置かれていたかとか何か思い当たることは無いですか?」


「…………うーん……」


何かあったような無いような……

なんでしたっけ……


「えーっと……」

「うーんと……」


「なんでも構わないので何か思い出すことはないでしょうか?」


「あっーーーーーー」


思わず大きい声を出してしまいました。

勇者様とおつきの女性がビックリした顔でこちらを見てきます。

私としたことが……

すっかり忘れていたことがありました。


「思い出しました」

「このシルフィーネ村を守るための社になります」

「そんなに強いものではないのですが、複数の社を使って結界をはっていました」

「……と先代の長が言っていたかと思います」


「結界?」


「はい」

「勇者様が通ってこられた森にも確か1つあったかと思います」

「複数の社に風の水晶を置き、弱い魔物は近づけないようにしていました」


「そういうことなのですね」

「ということは、私が見た社にも風の水晶が置かれていたと」


「そうなるかと思います」

「私も聞いただけなので、しっかりと確認したことはないです」


確かシルフ族に伝わる結界魔法を風の水晶と連携して作った簡易な結界だったはず。

その風の水晶が無くなっているということは……


「それで魔物が大量に発生してきたということですね」

「今の状況になった理由がわかりました」


「アウラさん」

「何故そのことを最初に話してくれなかったのですか?」


「いやー」

「そのー」

「……」

「単純にですね」

「忘れていました」


本当に恥ずかしいです……


「大事なことを忘れていてごめんなさい」


「気にせずに」

「忘れてしまうこともあると思うので」

「ただ誰かがその風の水晶を持ち去ったということでしょうか」


「そんなのは魔王の手の者に決まっておろう」


おつきの女性が話に割り込んできます。


「それはそうかもしれないが……」

「アウラさん、他にも同じような場所はあるのでしょうか?」


「そうですね」

「風の水晶が置かれている祠は全部で4箇所だったかと思います」

「その4箇所に風の水晶を置けばもとに戻るはずです」


「その4箇所の位置は?」


「えっと、確か、南の森、北西部の大きな木、北東部の丘、北部の洞窟だったと思います」


「北部の洞窟は確か魔物が湧き出るところですか?」


「はい」

「その洞窟です」


「わかりました」

「まず、北東部の丘と北部の洞窟は私たちがなんとかします」


おつきの女性は不機嫌な感じになってまた話に割って入ります。


「私『たち』じゃなくて、おぬしだけじゃろ」

「ワシは面倒じゃ」


この人は面倒なことはやりたがらないのかしら。

勇者様の言うことをお聞きにならないのは、何故なのでしょうね。

ただ勇者様は構わず話を続けてくださいました。


「その間に南の森の祠の確認をお願いします」

「あと風の水晶があれば準備いただけると助かります」


これは風の水晶の準備が必要そうですね……

えっと確か結界魔法は……


「……わかりました……」

「魔物の方はお願いします」

「南の祠の確認と風の水晶は私がなんとかします」


「ありがとうございます」

「よろしくお願いします」


たぶんどこかに魔法書があったはずですねー。

勇者様に頼られた以上、なんとかしないとですねー。


話が終わると勇者様は北東部へ行くための準備で宿に帰られました。

勇者様の喜んでくださるところがまた見たい。

なんとかして風の水晶を作らないといけないですねー。


南の森の祠の場所も見つけないと行けないし。

明日もいろいろとやることがありますねー。

勇者様も頑張ってくださっているので、私もなんとか頑張らないといけませんねー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る