第11話 魔獣アウルベア ~アグリサイド~

北西部周辺に出立する前に、村の長であるアウラのところへ行った。


「これから北西部周辺の魔物の殲滅と調査をしてこようと思います」


「早速ありがとうございます」


「俺もまだまだ強くならないといけないので、時間をいただくことになるとは思います」

「ただ、必ず正体を突き止めて、村を平和にしていきます」


まだ俺自身の力に自信があるわけではない。

でもゾルダと一緒ならなんとかなるかもしれない。


「期待しています」

「私に力がなれることがあれば、いつでもおっしゃってください」


期待されるとついつい強気になってしまう。

でも俺の力だけではどうにもならないこともあるかもしれない。

ゾルダの力でもだ。

まぁ、ゾルダは戦闘では負けないと思うけど、力だけでなんとかならないこともありそうだ。


「その時はお力を借りると思います」

「では行ってきます」


アウラとの話が終わると、北西部に向けて歩き出した。


「おぬし、用は済んだか」

「さて、どんな強い魔物がいるのか楽しみだのぅ」


ゾルダは戦いが出来そうなこともあって、上機嫌だ。

機嫌がいいうちに、少しでも力を借りて魔物の殲滅をしていかないといけない。


「さぁ、どんな魔物がいるか、様子を見ながら進んでいこう」


北西部の森に入り、しばらく進む。


「ゾルダ、周りに魔物はいるか?」


「…………」


「おい、ゾルダ」


「……………………」


返事がない。

寝ているのか。

ゾルダの援護がないなら慎重に進まないと……


恐る恐る歩を進める。

周りを警戒しながら。

さすがにちょっとビビり過ぎかも。

でもこの間のウォーウルフキングみたいなのが突然出てこられてもな。


拓けた道ではあるが周りの様子を伺いながら進めていく。

すると大きな木がたたずむ場所へと出た。


「ずいぶんと大きな木だな」

「なんの木だろう」


上を見上げてみる。


ガサガサ――――

ガサガサガサ――――


大きな木の枝が揺れる。


「グォーーーー」


1頭の熊が落ちてきた。


「うぁっ」

「なんだ、この熊は」


慌てて剣を構える。

大きさとしては2mぐらいか。

俺をはるかに上回る大きさだ。


「ガーー」


鋭い爪を振りかざして襲い掛かってきた。

剣で受け止めたが、力で吹っ飛ばされる。


「ぐっ……」

「なんて力だ……」


接近戦では厳しいかもしれない。

えっと、確かレベルがあがって魔法をいくつか覚えていたような。

使ってみるか。


「フレイム」


手を熊の方に向けて唱える。

炎の玉が手から飛び出し、熊にあたる。


「グォ……」


少しは効いたかな。

続けて打ってみるか。


「フレイム、フレイム、フレイム」


続けざまに炎の玉が熊に向かっていく。

そして炎に包まれる。

が……それも長くは続かなかった。


「グォーーーー」


熊が咆哮すると、炎が消えてしまった。

ホントに少しだけしか効かなかったみたいだ。


そのままこちらに熊が突進をしてくる。

盾を構えて受け堪えようするが、軽く俺を吹き飛ばす。


「うぁぁぁーーーー」


大きな木に背中を打ち付ける。

その振動からか、ゾルダが目を覚ましたようだ。


「おぬし、何をやっている」


「何をやっているって」

「見りゃわかるだろう」

「熊と戦っている」


ここまでずっと寝ていたのか。

呑気だな。


「何、戦い?」

「で、相手はどこにいる」


「そこだよ」


剣を熊の方に向ける。


「なんだ……」

「グリズリー1匹だけか」


「なんだ……って結構なパワーだぞ」

「しかしあの熊、グリズリーって言うんだな」


「この間戦ったウォーウルフより、ちょこっと上じゃな」

「でもパワーはかなり上じゃからのぅ」

「正面からは避けた方がいいぞ」


「さっきから正面で受けっぱなし」

「どうすればいい?」

「力は貸してくれるか?」


打開策が見えない俺はゾルダへ頼んでみた。


「いいや」

「まだワシの出番じゃないのぅ」

「いろいろ考えて戦え」


簡単に言うなぁ。


「ならアドバイスぐらいはしてくれよ」


「そうじゃのぅ」

「まずはすばしっこく動き回りながら、魔法で攻撃してみたらどうじゃ」

「隙が出来たところで、剣に相手が弱い属性を付与して切り込む」


「弱い属性を付与してって……」


「おぬし、この間覚えたはずじゃぞ」

「たしか……」

「アトリビュート(付与)だったかのぅ」


「あっ、確かに一覧にあったような」


「そして、グリズリーの弱点は雷じゃ」


「了解」


俺はグリズリーから間合いをとって、弱点の魔法を繰り出す。


「サンダー」


グリズリーが怯む。

これは効きそうだ。


「サンダー」


魔法を打ち込みながら間合いを詰めていく。

グリズリーは防戦一方になっている。

ここまで詰めれば、剣でいけるか。


「アトリビュート、サンダー」


剣が雷をまとう。


「はぁっっっっ」


一気に間合いを詰めて斬り込んだ。


「グォー……」


魔法の攻撃も効いていたのか、一撃で倒すことが出来た。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「ほれ、やれば出来るじゃろ」

「おぬしは圧倒的に実戦が足りておらんからのぅ」


「いや……」

「ゾルダが寝てなければ……」


「はぁっ?」

「ワシが寝ておったじゃと」

「寝てなぞおらぬ」


「いくら声かけても、返事がなかったんだけど」


「……」

「寝てはおらぬ」


「はいはい」


「このあたりはグリズリーが徘徊しておるようじゃな」

「周りにもまだまだおりそうじゃな」


あっ、ゾルダのやつ、話をそらしたな。


「とりあえず戦い方はなんとかわかった」

「この辺りのグリズリーを殲滅しよう」


「おぬし、調子に乗るなよ」

「グリズリーにも親玉はおるからな」


「わかった、わかった」

「ただ、一気に来られても困るし、まずは一匹ずつかな」


ゾルダが周辺の魔物の様子を伺ってくれるようになった。

グリズリーはあまり群れでいることはないようで、一匹ずつのところを狙って仕留めていった。


十数匹は倒しただろうか。

最初に比べるとだいぶ楽に勝てるようになってきた。


「これなら、2、3匹来ても大丈夫だろう」


「それが調子に乗っておるっていうんじゃ」


「そうかなぁ」

「この間にもレベルはあがったようだし、力はつけてきてるはずだけど」


「それはそうじゃが……」

「今度はそうもいかんぞ」


ゾルダが何かを感じ取ったらしい。


「何かいるのか」


「そうじゃな」

「強い気配があちらからする」

「たぶん、親玉じゃろう」


親玉がいるという方へ向かってみる。

木の陰から除くと、そこには大きな熊らしき魔物がいた。


「ほぅ、あれは……」

「魔獣アウルベアだのぅ」


「アウルベア?」


「頭がフクロウ、体が熊の魔獣じゃ」

「ちと厄介じゃのう」


「厄介?」

「今までの魔物と違うのか?」


「ちょっとばかり知能もあるから、いろいろ考えおる」

「まぁ、ワシが出れば造作もないことじゃがの」

「今まで休ませてもらったし、ここはワシの出番かのぅ」


ゾルダはそう言うと姿を現わし、にやりとしながらつぶやいた。


「さて、体を動かすか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る